ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

03-01 読書ノート

ジェフリー・アーチャー『嘘ばっかり』

最新短編集 全14冊に及ぶ空前の大河小説『クリフトン年代記』が完結したばかりで早くも次ぎに短編集。アーチャーといえば、長編のストーリーテラーと思いきや短篇もいける。短編集としては7冊目で、本作には15本の短篇が収められている。 短篇の妙味は…

久住昌之『線路つまみ食い散歩』

〝つたい歩き〟鉄道紀行 つたい歩きとは、鉄道線路沿いをつたって歩くこと。 鉄道趣味世界も、撮り鉄、乗り鉄や車両派、時刻表派などと幅広いが、〝つたい歩き派〟もその一つか。新しい流派だろうが、乗っていては見えてこないものが見えてくるのだろうか。 …

村田靖子『エルサレムの悲哀』

エルサレムを舞台にした物語 これは珍しい、エルサレムを舞台に日本人によって書かれた物語である。著者は、イスラエルのキブツ(農業共同体)で暮らした経験を持ち、現代ヘブライ文学の研究や翻訳活動を行っている。 書き下ろしの9本の短篇で構成されてい…

内田洋子『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』

「本が本を連れてくる」 モンテレッジォは、イタリア北部、トスカーナ州の山深い寒村。ここの村人たちは、かつて、貧しさから逃れ現金収入を得るために村を出て本を担いで行商して歩いたという。それはどういうことだったのか、非常なる興味を抱いて本書の物語…

68年前の『サンデー毎日』

(写真1 『サンデー毎日』昭和25年2月12日号の表紙) 表紙絵は小磯良平画 昭和25年2月12日発行の『サンデー毎日』である。68年前の発行ということになる。 ある探したい本があって書棚を漁っていたところ思わぬことで見つけた。 記憶をたどって…

高橋弘希『送り火』

芥川賞受賞作 後味の悪い小説だ。面白くないとは言わないが、読んで楽しくもない。芥川賞受賞作だから読んだけれども、そうでなかったら手に取らなかっただろう。 ただ、文章はうまい。濃密な描写できちんとしている。ただし、やや硬質だ。とても三十代の作…

池澤夏樹『終わりと始まり2.0』

率直な時評で人気のコラム 朝日新聞に連載されてきた時評を中心としたコラム集の第二集。2017年末までの4年分が収録されている。 連載が一か月に1度という頻度がいいようで、世の動きを一か月ごとに区切り、その中からテーマを選び、それに関わる情報…

「新釈漢文体系」全120巻完結

(写真1 新釈漢文体系第7巻『老子・荘子(上)』) 明治書院が58年かけ偉業 「新釈漢文大系」は、明治書院が出版している漢文の大系で、思想や歴史から文芸まで中国古典を網羅している。1960年(昭和35年)の第1巻『論語』から刊行が開始され、今年…

池内紀・松本典久編『読鉄全書』

鉄道ものアンソロジー タイトルが断然いい。読鉄(よみてつ)とはふるっている。鉄道趣味世界も幅は広くて、鉄道の写真撮影を趣味とする撮鉄(撮り鉄)、鉄道に乗っていることが楽しい乗鉄(乗り鉄)から車両派や廃線派などとあってそれぞれに一派一家を構え…

スティーヴン・キング『刑務所のリタ・ヘイワース』

(写真1 『刑務所のリタ・ヘイワース』所収の「ゴールデンボーイ」) 映画『ショーシャンクの空』原作 アメリカ映画『ショーシャンクの空』をテレビで見たところとてもいい映画で味わい深かったので原作を手に取った。すでに原作を読んでいた映画を観ることは…

ベルンハルト・シュリンク『階段を下りる女』

不思議な味わい深い魅力 傑作『朗読者』の著者による近作。またまた魅力的な作品を手に取ることができた。 フランクフルトの弁護士である語り部の「ぼく」は出張先のシドニーで、業務を終えてふと入ったアートギャラリーで1枚の絵と出会う。 絵には「階段を下…

ジョン・ハート『終わりなき道』

評価が分かれる大作 誤解を恐れずに書けば、これは心温まる物語である。ただし、誤解されないために書き加えれば、暴力シーンの連続で、殺された人間が20人近くにもなる。 1ページ2段組のポケミスで600ページ近い長編で、大作ではあるがこれを途中で…

『行ってみたい世界の灯台』

世界の絶景灯台65基 美しいカラー写真で世界65基の灯台が紹介されている。これまで目にすることもなかった灯台が多くてうっとりする。写真には簡単なものだが解説も添えられているから、なるほど行ってみたくなる魅力があった。 それにしても世界にはい…

佐々木譲『警官の掟』

禁忌に踏み込む 指名手配中の殺人犯を追う大井署地域課の波田野涼巡査と門司孝夫巡査長。湾岸エリア、城南島の巨大倉庫に追い詰める。遅れて第一自動車警ら隊の松本章吾巡査と能条克巳車長が駆けつける。波田野と松本は警察学校の同期である。犯人は銃を所持…

マイクル・コナリー『死角 オーバールック』

ハリー・ボッシュ・シリーズ 亡くなった友人の遺品が送られてきた。段ボール箱には文庫本がいっぱいに詰まっていてマイクル・コナリーの著作が数十冊も含まれていた。私がミステリー好きと知ってのことらしい。 確かにミステリー好きではあるが、このアメリカの…

マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー『消えた消防車』

マルティン・ベックシリーズ スウェーデン語からの直接の訳出で改めて注目されているマルティン・ベックシリーズの5作目。 張り込みをしていたグンヴァルト・ラーソンの目の前でアパートは爆発炎上した。張り込み対象の1階右のマルムの部屋が火元と見られたが…

小川クニ『ゆりかご ごっこ』

心温まるエッセイ集 80台を前に来し方を振り返りつつ綴ったエッセイ集である。著者は岩手県在住。地元新聞岩手日報の随筆欄に投稿して掲載された作品が多く、29編が収録されている。80歳前後から折々に書かれているのだが、通して読めば、エッセイで綴…

本の雑誌編集部編『絶景本棚』

羨ましい書棚 『本の雑誌』に連載された「本棚が見たい!」を単行本化したもの。30数名の作家や評論家、編集者などの書棚がカラー写真で紹介されている。 他人の書棚を見るというのは、のぞき見のような面白さがあり、どのような本を読んでいるのか興味が…

レイフ・GW・ペーション『許されざる者』

スウェーデンミステリの傑作 国家犯罪捜査局の元長官ラーシュ・マッティン・ヨハンソンは、外出中、脳塞栓で倒れ、カロリンスカ医科大学病院に搬送され入院していた。 入院中、リハビリに励んでいたところ、主治医のウルリカ・スティエンホルムから意外な話がも…

原尞『それまでの明日』

探偵小説の復権 待望の新刊である。14年ぶりだという。デビューから30年になるか、処女作『そして夜は甦る』から『私が殺した少女』『さらば長き眠り』などと好んで読んできた。ただ、いかんせん寡作で、この頃ではもう筆を折ったのかと思っていた。 し…

畑村洋太郎『技術の街道をゆく』

技術者への提言 著者は東京大学名誉教授。「失敗学」の提唱者として知られる。失敗に学び、同じ過ちを起こさないようにするということだが、境界領域の広い学問で、原因究明をしっかりと行うことはもちろん、得られた知識を社会に広めていくことが肝要だと提…

みやこうせい『MY MARAMUREŞ』

マラムレシュ写真集 ルーマニアで出版されたみやこうせい写真集である。〝私のマラムレシュ〟とタイトルが付されている。 みやさんは、エッセイスト・フォトアーティスト。1937年生まれ、岩手県盛岡市出身。ルーマニア文化功労章受賞。 マラムレシュとは…

池澤夏樹『のりものづくし』

市電で行けるところまで行く流儀 いやはや書名そのものである。旅好きのこと、乗り物も好きだろうなとは想像はついていたが、およそあらゆる乗り物に乗っている。本書はその体験に基づいて書いたエッセイ集。 鉄道や自動車はもとより、エレベーター、フェリ…

馬場道『photo essay 撮り歩き』

(写真1 私家版『photo essay 撮り歩き』 市井の観察 なかなかいい思いつきなのではないか。傘寿を控えてカメラを持って市井を観察して歩く。面白いもの、ふと気になることを見つけては写真に撮りエッセイにする。それをこつこつ貯めていっては100本とな…

若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』

(写真1 芥川賞決定前の発売だったので帯が芥川賞候補作となっている)芥川賞受賞作 表題の、おらおらでひとりいぐもは、私は私なりに一人で生きていくよ、というほどの意味か。訛りのかなり強い東北弁だが、この東北弁で語られる一人称に標準語の三人称が…

伊東潤『幕末雄藩列伝』

講談のごとき面白さ 講談のごとき面白さである。かといって、著者は講釈師ではないし小説家であって、史実を調べ裏付けを取っているようで、読んでリアリティは十分だ。それも、藩に焦点をあてて書いているのが特徴で、藩としての動向に力点が置かれている。…

赤塚隆二『清張鉄道1万3500キロ』

清張世界を読む乗り鉄 労作である。 松本清張の作品から鉄道の記述を抜き出し、乗車記録をリストしていく。それも、初乗りを丹念に拾っていく。第1作から読み進み、初乗りで乗った路線を鉄道地図に載せていくと、やがて清張鉄道1万3500キロが完成する…

正木香子『文字と楽園』

精興社書体で味わう現代文学 面白い。しかし、書体について探求したものでありかなり専門的ではある。 それも、楷書とか草書とか毛筆の書体のことではなく、また、明朝体やゴシック体といった一般の活字書体について書かれたものでもなく、ただただ「精興社…

ジェフリー・アーチャー『永遠に残るは』

クリフトン年代記第7部完結 クリフトン年代記が第7部をもってついに完結した。2013年にスタートした物語は、足かけ5年、各部文庫上下、合計14冊という長大なスケールとなった。 イギリス南西部の港湾都市ブリストルとロンドンを主要舞台に、ハリー…

フリーマガジン『灯台どうだい?』

(写真1 『灯台どうだい?』直近6号分)灯台マニアの崖っぷちマガジン フリーマガジンである。フリーマガジンといえば、フリーペーパーも含め広告料収入でまかない無料配布しているものが大半だが、このマガジンの特徴は広告を一切取らず無料配布を貫いて…