ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

03-01 読書ノート

髙村薫『我らが少女A』

ダイヤグラム上で誰が交差するのか 池袋で風俗の若い女が同棲相手の男に殴打され殺された。この事件そのものは男が自首しており何の謎めいたところもないのだが、男は取り調べで、女がいつだったか使い古しの絵の具のチューブを男に見せて、何年か前に武蔵野…

ウィリアム・トーブマン『ゴルバチョフ』

その人生と時代(上・下) ソ連の最高指導者だったミハイル・ゴルバチョフの評伝である。ただし、ソ連という政体においては最後の書記長であり大統領であった。1922年生まれ、現在も生存中と伝えられている。私としてはペレストロイカを推進した人物として…

池澤夏樹『科学する心』

文学的科学エッセイ 大学で理系に身を置いたこともある著者によるこれは科学を話題に据えたエッセイ集。とにかく著者の該博な知識には驚嘆するばかりだが、そこは一流の文学者によるものだから、一つひとつのテーマはとても難しいものばかりなものの、理系に…

『刑事の矜持』

ミステリーのアンソロジー 日本推理作家協会賞受賞作家たちによる傑作短編集第7弾。 大沢在昌、黒川博行、佐野洋、島田一男、土屋隆夫、角田喜久雄の6人が名を連ねている。ただ、佐野、島田、土屋、角田の4人はすでに物故者。初出時も、60年70年前の…

ホーカン・ネッセル『悪意』

スウェーデンミステリー このところ元気なスウェーデンミステリー。次々と新しい作品が紹介されて楽しませてくれている。特に現地在住の翻訳家の活躍が光る。英語版からの重訳ではなく原書からの訳出だから細かな味わいが出ているように思う。マイ・シューバ…

荻原浩『海の見える理髪店』

直木賞受賞作の短編集 直木賞受賞作である。短編6編が収められている。 どれも珠玉の作品ばかりで印象深いが、表題作の「海の見える理髪店」は、海辺の小さな町の床屋が舞台。時代遅れの洋風造り、人が住まなくなった民家を改装したような店構え。 「店の中…

今村夏子『むらさきのスカートの女』

芥川賞受賞作 面白い。近年の芥川賞受賞作では出色ではないか。滑らかだし読みやすい。だから一気に読める。 しかし、だまされてはいけない。読み進んでふと気がつくと内実恐い物語である。特に後半はミステリーじみてくる。 むらさきのスカートの女は、仕事…

髙村薫×南直哉『生死の覚悟』

作家と禅僧の対話 魅力的な組み合わせである。 ディテールをないがしろにせず理詰めの作風で人気の作家髙村薫。近年は『晴子情話』三部作や『空海』などを著し、仏教への切り込みに新境地を見せている。対する南直哉(じきさい)は永平寺で修行を積んだ曹洞…

図書館と書店が融合した多賀城市立図書館

(写真1 2階から見た蔦屋書店店舗(左部分)と、びっしりと本で埋め尽くされた壁面の書棚から右が図書館) TSUTAYA図書館 図書館と書店が融合した施設が評判になっているというのでわざわざ見学に出掛けてみた。 仙台駅から仙石線で約20分多賀城駅…

中村文則『あなたが消えた夜に』

二回読んでも難解 4年前に単行本が刊行された折にすでに読んでいて、このたび文庫化されて再び手に取った。つまり再読と言うことだが、まったく色褪せていなかった。それほど面白いと言うことだが、まずはそのことに自身率直に驚いた。小説は文庫化されて再…

馬場道『photo esseay 続「撮り歩き」』

豊かな着眼と鋭い視点 昨年2月に上梓した『撮り歩き』の続編。第一集では100本200ページのphoto essayが収録されていたが、その後も精力的にカメラを片手に歩きまわっていたようでわずか1年2ヶ月で第二集をまとめた。 撮り歩きとは、散策にもカメラ…

柚月裕子『慈雨』

慟哭のミステリー 警察官を定年退職した神場智則は、妻の香代子を伴って四国巡礼の旅に出た。神場は群馬県警捜査一課の元刑事で、夫婦ふたりの旅は新婚旅行以来だった。八十八か所すべての寺を歩いて回る計画で、一番札所の霊山寺から順に約二ヶ月をかけて遍…

二宮敦人『最後の秘境 東京藝大』

天才たちのカオスな日常 知り合いには芸大出身の画家や演奏家が幾人かいるし、美術展や音楽会にも時折出掛けていて芸大出の経歴を目にすることもままあって、芸大には普段から関心が高い。 しかし、芸大生たちは超難関の狭き門をくぐってきた天才たちの集ま…

大江健三郎『政治少年死す』

『セヴンティーン』第二部 『セヴンティーン』は1961年「文学界」1月号に発表され、続いて2月号に『政治少年死す』(セヴンティーン第二部)が発表された。大江健三郎26歳の頃で、大江はすでに23歳で芥川賞を受賞し、旺盛な執筆活動を行っていて最…

青山文平『半席』

上質の時代物ミステリー 直木賞作家が描く連作短編集である。時代物のミステリーが6編収められている。それがいずれも面白くて思わずページをくくる手が停まらない。ぬる燗にするめでもかじりながら読み進むとなおさら物語世界に漬かりながら興趣が盛り上が…

川本三郎『あの映画に、この鉄道』

日本映画鉄道紀行 映画に登場した鉄道が丹念に取り上げられている。 ざっと数えてみたところ、取り上げられた映画は合計241本。登場した路線や駅は実に404。著者は評論家。映画や鉄道に造詣の深いことはよく知られているところだが、それにしてもよく…

アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件(上・下)」

稀にみる傑作ミステリ これは稀にみるミステリの傑作だ。文庫本で上下2冊。謎解きの面白さが詰まっていて、じっくり読み進むとミステリ好きにとっては至福の時を過ごすことができる。 イギリスミステリらしく構成がよくよく凝っている。文庫上下2冊という…

町屋良平『1R1分34秒』

芥川賞受賞作 二十一歳のC級プロボクサーが主人公。最下級のプロライセンスで、いわゆる四回戦ボーイと呼ばれるクラスか。デビュー戦を初回KOで華々しく飾ったものの、その後二敗一分けと負けが込んできている。 ディテールがすごい。パチンコ店員として…

なないろ作『ちくちくとふわふわ』

バイリンガル絵本 ふわふわFLUFFY(フラッフィー)と、ちくちくSPIKY(スパイキー)が登場する。 FLUFFYは、ふわふわ言葉で誰かをハッピーにしてはなまるをもらったときのような気持ちにしてくれるし、SPIKYは誰かをアンラッキーにして何かをぐちゃぐちゃにして…

入場料1500円の書店「文喫」

(写真1 店内の書棚の様子。通路が狭い) 従来のコンセプトが合致しない書店 入場料が1500円もする書店ができたというのでのこのこ出掛けてみた。場所は地下鉄六本木駅のすぐそば。昔、青山ブックセンターだったところ。 店内に入ると、左に雑誌の棚。…

角川 俳句歳時記 第五版

全5冊が完結 角川書店編になる俳句歳時記の改訂第五版がこのたび発行の新年編をもって全5冊が完結した。 俳句歳時記で角川編は歳時記の先駆として最も親しまれているもののうちの一つであろうか。 1955年の刊行から半世紀余を経て第五版の改訂が行われ…

今野敏『去就』

隠蔽捜査6 警視庁大森警察署署長竜崎伸也を主人公とする人気シリーズの最新刊。 竜崎は東大法卒のキャリア組で、警察庁官房総務課長まで歴任したエリートだったが、つまらぬ責任を取らされて大森署に飛ばされていた。階級は警視長で、警視正程度が任命され…

フリン・ベリー『レイチェルが死んでから』

入り組んだ心理劇 ノーラは、週末を利用してロンドンから姉のレイチェルが住むコーンウォールを訪ねた。 家が近づくと何かがおかしい。家に入ると最初に目にはいったのは犬で、階段の一番上からリードで吊り下げられていた。階段を登ると、腰板に血痕があり…

2018年回顧 小説・映画・美術・音楽

(写真1 私が選んだ今年の3冊) 今年のABABA'sノートから② 本好きだし、映画も観るし、美術館にもよく足を運ぶ。音楽会にも時折顔を出す。 ただ、私はどれ一つ取っても好事家というほどはないし、格別の造詣があるわけでもない。 しかも、私は、本にしろ、…

村松拓『海の見える駅』

旅情がかき立てられる 全国各地の海の見える駅が北から南まで70カ所取り上げられている。 海の見える駅はつまり海が映える駅でもあるわけで、美しいカラー写真で構成されている。それも、一つの駅に1枚や2枚の写真ではなくて数枚は載せられているからと…

越 信行『絶景駅100選』

最も輝いている季節を選んで 生涯一度は行きたい春夏秋冬の絶景駅-とある。 著者は、駅旅写真家と名乗っているが、鉄道あるいは鉄道写真の世界にもいろいろなカテゴリーがあるものだ。 その著者が、何と全国4500もの駅を旅して、美しいカラー写真で紹介…

植本一子『フェルメール』

独特の写真紀行 ずばりとした書名だが、内容はフェルメールに関するガイド本でも画集でもないのでまずは念のため。 著者は写真家。傍ら執筆も手がけるという様子。34歳。出版社の依頼でフェルメールの全作品を写真に撮ることになり、世界各地に散らばって…

ジェフリー・アーチャー『嘘ばっかり』

最新短編集 全14冊に及ぶ空前の大河小説『クリフトン年代記』が完結したばかりで早くも次ぎに短編集。アーチャーといえば、長編のストーリーテラーと思いきや短篇もいける。短編集としては7冊目で、本作には15本の短篇が収められている。 短篇の妙味は…

久住昌之『線路つまみ食い散歩』

〝つたい歩き〟鉄道紀行 つたい歩きとは、鉄道線路沿いをつたって歩くこと。 鉄道趣味世界も、撮り鉄、乗り鉄や車両派、時刻表派などと幅広いが、〝つたい歩き派〟もその一つか。新しい流派だろうが、乗っていては見えてこないものが見えてくるのだろうか。 …

村田靖子『エルサレムの悲哀』

エルサレムを舞台にした物語 これは珍しい、エルサレムを舞台に日本人によって書かれた物語である。著者は、イスラエルのキブツ(農業共同体)で暮らした経験を持ち、現代ヘブライ文学の研究や翻訳活動を行っている。 書き下ろしの9本の短篇で構成されてい…