ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

03-01 読書ノート

ジェフリー・アーチャー『永遠に残るは』

クリフトン年代記第7部完結 クリフトン年代記が第7部をもってついに完結した。2013年にスタートした物語は、足かけ5年、各部文庫上下、合計14冊という長大なスケールとなった。 イギリス南西部の港湾都市ブリストルとロンドンを主要舞台に、ハリー…

フリーマガジン『灯台どうだい?』

(写真1 『灯台どうだい?』直近6号分)灯台マニアの崖っぷちマガジン フリーマガジンである。フリーマガジンといえば、フリーペーパーも含め広告料収入でまかない無料配布しているものが大半だが、このマガジンの特徴は広告を一切取らず無料配布を貫いて…

石川啄木『一握の砂』

近藤典彦編による定本 久しぶりに『一握の砂』を手に取った。かつては繰り返し読んでそらんじている歌も少なくなかった。 『一握の砂』は、啄木24歳の折に編んだ歌集で、啄木にとって初めての歌集だった。以来、どれほどの出版社から刊行され版を重ねてき…

カズオ・イシグロ『日の名残り』

ノーベル賞受賞作家の出世作 今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの出世作である。イシグロの作品はこれまでも好んで読んできたが、ノーベル賞を受賞したというので再び書棚から引っ張り出してきた。土屋政雄訳のハヤカワ文庫版で、およそ15年…

神田古本まつり盛大に

(写真1 神田古本まつりの様子=神田神保町交差点で)100万冊の大青空市 58回目を迎えた神田古本まつりが今年も昨日5日まで神田神保町の古書店街で開催された。 参加店が約100店舗、出品点数が延べ100万冊という我が国最大規模の古本市。主催者…

不動まゆう『灯台はそそる』

灯台に寄せるほとばしる愛情 著者は灯台女子であり灯台マニアだと自ら名乗っているが、いやはや灯台に寄せるほとばしるほどの愛情が素晴らしい。灯台に関する知識も深くて、ちょっと古い表現になるがまるで灯台博士だ。 内容的には、灯台マニア養成講座であ…

日本橋BOOKCON

(写真1 会場の様子)本の新しいコンベンション 日本橋の丸善で、日本橋BOOKCON(ブックコン)というイベントが先週行われていた。 約80の出版社が出展していて、それぞれがブースを構えて新刊の案内などを行っていた。 ブックフェアの小型版のようだが、…

中村元『水族館哲学』

独自視点で水族館の魅力掘り起こす 著者は水族館プロデューサー。サンシャイン水族館などを手がけたらしい。 その水族館を知り尽くした著者が、全国の主だった水族館を紹介しているのだが、その視点が極めて独特。それは、水族館は単に子どもの教育や魚マニ…

R・D・ウィングフィールド『フロスト始末』

愛すべきフロストはどこへ? ロンドンから70マイル、イギリス北西部の地方都市デントン署のフロスト警部を主人公とする人気シリーズ。相変わらず次から次へと難事件が持ち上がりフロストが右往左往する抱腹絶倒の物語である。 常連のデントン署の面々が個…

佐藤正午『月の満ち欠け』

「ちょっと死んでみる」 直木賞受賞作である。 面白い。先へ先へと進みたくなりページをめくる手がもどかしくなるほどだ。ただ、文章は練達の小説家を思わせる滑らかさなのだが、物語がややこしくてしばし手が停まる。 単行本300ページを超す長編だが書き…

沼田真佑『影裏』

文学青年の書いた小説 文学青年の書いた小説というのが第一印象。よく出来ているし面白い。この数年来の芥川賞受賞作の中では出色の出来ではないか。いたずらに新しさに走らず落ち着いた文章で淡々としているが、綴られる内容は濃密である。 盛岡に転勤して…

原田マハ『いちまいの絵』

絵とのドラマティックな出会い 26枚の絵が取り上げられている。それも単なる作品紹介ではなくて、著者自身のそれぞれの絵との出会いや印象があたかも肉声で語られているし、加えて画家のこと、美術史における位置などについてコンパクトにまとめられており…

荒川区に吉村昭記念文学館

(写真1 再現された書斎の様子)ゆいの森あらかわ内 先日、このブログABABA'sノートに三陸鉄道北リアス線島越駅の吉村文庫について書いたら、友人から荒川区にこんなのがあるよと言って吉村昭記念文学館を紹介された。 吉村は荒川区の生まれで空襲で家が焼…

藤田宜永『喝采』

魅力ある探偵の登場 主人公は私立探偵浜崎順一郎。事務所は新宿の歌舞伎町である。31歳の時、父の急逝で受け継いだ。父は警察を辞め探偵事務所を開いていた。その頃浜崎は不動産ブローカーをやっていた。少年院に世話になっていたこともあった。 事件への…

マイ・シューヴァル+ペール・ヴァールー『バルコニーの男』

新訳のマルティン・ベックシリーズ 柳沢由実子訳によるマルティン・ベックシリーズの新訳シリーズ。本作は4作目だが、日本語版発行は原作とは刊行順序が違っていて、原作では3作目。初訳は、高見浩訳で1971年の刊行だった。なお、高見訳が英語版からの重…

今野敏『自覚』

隠蔽捜査5.5 隠蔽捜査シリーズ短編集の第2弾。シリーズは長編5作まで進んでいるが、3作目の後に短編集第1弾が隠蔽捜査3.5として割り込んでいて、本作は5作目の後を受けたもの。なかなか面白いシリーズナンバーの振り方だ。 主人公はキャリア警察官…

譽田亜紀子『土偶のリアル』

土偶の魅力やさしく紹介 著者は、土偶に魅入られた土偶の研究者であり、土偶の魅力を伝える活動を行っている。 土偶とは、「およそ一万五〇〇〇年前から二四〇〇年前まで続いたとされる縄文時代に作られた、人形(ひとがた)の土の焼物」と冒頭述べている。 …

髙村薫『作家的覚書』

骨太の時評集 多くは2014年から2016年までの期間に「図書」や読売新聞、京都新聞などに掲載された時評が収録されている。 相変わらずこの人の時評は、調査を吟味し熟慮を重ねた上で慎重に筆を進めているという印象で、事象に対して直角に切り込んで…

マイ・シューヴァル+ペール・ヴァールー『煙に消えた男』

マルティン・ベックシリーズの新訳 スウェーデンのおしどり作家が1年に1作ずつ10年にわたって書き連ねて、今や警察小説の古典と言われるマルティン・ベックシリーズ。本作は原作2作目で1966年の刊行。日本では高見浩訳で1977年に『沈黙する男』と…

柚月裕子『検事の本懐』

魅力ある主人公 薦める人がいて手に取った。ミステリーファンのようだから知っているだろうと言われたが、この作家のものは初めてだった。 米崎地検刑事部検事佐方貞人を主人公とする短篇連作。5話で構成されている。 佐方は任官3年目の検事。若いが秋霜烈…

池澤夏樹『キトラ・ボックス』

上質な小説の面白さ もちろん続編ではないし、連作でもなく、シリーズでもないが、いろいろな意味で『アトミック・ボックス』を引き継いでいる。 ミステリーでありサスペンスであること、このことがまず一つ。道具立てやトリックが秀逸であること、このことが…

土橋章宏『文明開化 灯台一直線』

灯台の父ブラントンの足跡 物語の主人公はリチャード・ブラントン。明治初期に灯台建設にあたった英国人技師である。ブラントンが日本で建設した灯台はその数26とされ、今日では「日本の灯台の父」と尊称されている。日本が高給をもって招聘した初めてのお…

アリス・マンロー『ジュリエット』

ノーベル賞作家の短編集 アリス・マンローは現代カナダの作家。2013年ノーベル文学賞を受賞している。 短篇の名手として知られ、本作も短編集で、8編が収録されている。 1編目から順に読んでいってわかったのだが、2編目から4編目までの3編はジュリ…

フレデリック・フォーサイス『アウトサイダー』

フィクションを越える自伝 『ジャッカルの日』、『オデッサ・ファイル』、『戦争の犬たち』などと次々とヒットを飛ばしてきたフォーサイスの、本書は自らの人生を描きながら小説を地で行くというか、それ以上にフィクションを越える自伝だ。 フォーサイスは1…

土屋武之監修『日本と世界の長距離列車』

長距離列車のうんちくいっぱい 長距離列車の魅力についてまず次の4つを紹介している。 魅力①地球スケールの距離=世界一の長距離列車は9259キロのシベリア鉄道「ロシア号」だが、3千から4千キロ台の長距離列車も数多い。 魅力②個性豊かな客室=バスタ…

太田和彦『みんな酒場で大きくなった』

居酒屋で一人酒 著者は、『居酒屋味酒欄』などの著書もあり、今日の居酒屋ブームの先駆け的存在らしい。本書は、その著者が、6人のゲストと居酒屋で飲んだ対談集。 ホスト太田の、静かなたたずまいと、無類のうんちくに、個性豊かなゲストの表情が引き出さ…

ジェフリー・アーチャー『機は熟せり』

クリフトン年代記第6部 第1部の『時のみぞ知る』が出たのが2013年。波瀾万丈の物語が続き、4年を経てついに第6部に至った。 物語としては、第1部が1919年から始まっていて、第6部では1978年まで進んできた。60年近い歳月を経て主人公も…

山下澄人『しんせかい』

芥川賞受賞作 今期の芥川賞受賞作である。 倉本聰が主宰する富良野塾とおぼしきところが舞台で、【谷】と表現されている。主人公は著者自身とおぼしく、【谷】ではスミトと呼ばれている。 スミトは去年高校を出たばかり。ふと手にした新聞に二期生募集とあり…

池澤夏樹『知の仕事術』

現代版知的生産の技術 「情報」、「知識」、「思想」について、これらをいかにして獲得し、日々更新していくか、かつて学んで得た知識をいかにアップデートしていくか、現代を知力で生きていくスキルを整理してみたというのが本書。 かつて、梅棹忠夫の『知…

書皮友好協会監修『日本のブックカバー』

ブックカバーへの熱い思い ここでいう書皮とは、書店で本を購入するとかけてくれるブックカバーのこと。中国語では本の表紙を表す。『広辞苑』にはあったが、載っていない国語辞典や漢字辞典の方が多く、まだ馴染みは薄い。 この書皮に魅入られた愛好家たち…