ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

03-01 読書ノート

本の雑誌編集部編『絶景本棚』

羨ましい書棚 『本の雑誌』に連載された「本棚が見たい!」を単行本化したもの。30数名の作家や評論家、編集者などの書棚がカラー写真で紹介されている。 他人の書棚を見るというのは、のぞき見のような面白さがあり、どのような本を読んでいるのか興味が…

レイフ・GW・ペーション『許されざる者』

スウェーデンミステリの傑作 国家犯罪捜査局の元長官ラーシュ・マッティン・ヨハンソンは、外出中、脳塞栓で倒れ、カロリンスカ医科大学病院に搬送され入院していた。 入院中、リハビリに励んでいたところ、主治医のウルリカ・スティエンホルムから意外な話がも…

原尞『それまでの明日』

探偵小説の復権 待望の新刊である。14年ぶりだという。デビューから30年になるか、処女作『そして夜は甦る』から『私が殺した少女』『さらば長き眠り』などと好んで読んできた。ただ、いかんせん寡作で、この頃ではもう筆を折ったのかと思っていた。 し…

畑村洋太郎『技術の街道をゆく』

技術者への提言 著者は東京大学名誉教授。「失敗学」の提唱者として知られる。失敗に学び、同じ過ちを起こさないようにするということだが、境界領域の広い学問で、原因究明をしっかりと行うことはもちろん、得られた知識を社会に広めていくことが肝要だと提…

みやこうせい『MY MARAMUREŞ』

マラムレシュ写真集 ルーマニアで出版されたみやこうせい写真集である。〝私のマラムレシュ〟とタイトルが付されている。 みやさんは、エッセイスト・フォトアーティスト。1937年生まれ、岩手県盛岡市出身。ルーマニア文化功労章受賞。 マラムレシュとは…

池澤夏樹『のりものづくし』

市電で行けるところまで行く流儀 いやはや書名そのものである。旅好きのこと、乗り物も好きだろうなとは想像はついていたが、およそあらゆる乗り物に乗っている。本書はその体験に基づいて書いたエッセイ集。 鉄道や自動車はもとより、エレベーター、フェリ…

馬場道『photo essay 撮り歩き』

(写真1 私家版『photo essay 撮り歩き』 市井の観察 なかなかいい思いつきなのではないか。傘寿を控えてカメラを持って市井を観察して歩く。面白いもの、ふと気になることを見つけては写真に撮りエッセイにする。それをこつこつ貯めていっては100本とな…

若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』

(写真1 芥川賞決定前の発売だったので帯が芥川賞候補作となっている)芥川賞受賞作 表題の、おらおらでひとりいぐもは、私は私なりに一人で生きていくよ、というほどの意味か。訛りのかなり強い東北弁だが、この東北弁で語られる一人称に標準語の三人称が…

伊東潤『幕末雄藩列伝』

講談のごとき面白さ 講談のごとき面白さである。かといって、著者は講釈師ではないし小説家であって、史実を調べ裏付けを取っているようで、読んでリアリティは十分だ。それも、藩に焦点をあてて書いているのが特徴で、藩としての動向に力点が置かれている。…

赤塚隆二『清張鉄道1万3500キロ』

清張世界を読む乗り鉄 労作である。 松本清張の作品から鉄道の記述を抜き出し、乗車記録をリストしていく。それも、初乗りを丹念に拾っていく。第1作から読み進み、初乗りで乗った路線を鉄道地図に載せていくと、やがて清張鉄道1万3500キロが完成する…

正木香子『文字と楽園』

精興社書体で味わう現代文学 面白い。しかし、書体について探求したものでありかなり専門的ではある。 それも、楷書とか草書とか毛筆の書体のことではなく、また、明朝体やゴシック体といった一般の活字書体について書かれたものでもなく、ただただ「精興社…

ジェフリー・アーチャー『永遠に残るは』

クリフトン年代記第7部完結 クリフトン年代記が第7部をもってついに完結した。2013年にスタートした物語は、足かけ5年、各部文庫上下、合計14冊という長大なスケールとなった。 イギリス南西部の港湾都市ブリストルとロンドンを主要舞台に、ハリー…

フリーマガジン『灯台どうだい?』

(写真1 『灯台どうだい?』直近6号分)灯台マニアの崖っぷちマガジン フリーマガジンである。フリーマガジンといえば、フリーペーパーも含め広告料収入でまかない無料配布しているものが大半だが、このマガジンの特徴は広告を一切取らず無料配布を貫いて…

石川啄木『一握の砂』

近藤典彦編による定本 久しぶりに『一握の砂』を手に取った。かつては繰り返し読んでそらんじている歌も少なくなかった。 『一握の砂』は、啄木24歳の折に編んだ歌集で、啄木にとって初めての歌集だった。以来、どれほどの出版社から刊行され版を重ねてき…

カズオ・イシグロ『日の名残り』

ノーベル賞受賞作家の出世作 今年のノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの出世作である。イシグロの作品はこれまでも好んで読んできたが、ノーベル賞を受賞したというので再び書棚から引っ張り出してきた。土屋政雄訳のハヤカワ文庫版で、およそ15年…

神田古本まつり盛大に

(写真1 神田古本まつりの様子=神田神保町交差点で)100万冊の大青空市 58回目を迎えた神田古本まつりが今年も昨日5日まで神田神保町の古書店街で開催された。 参加店が約100店舗、出品点数が延べ100万冊という我が国最大規模の古本市。主催者…

不動まゆう『灯台はそそる』

灯台に寄せるほとばしる愛情 著者は灯台女子であり灯台マニアだと自ら名乗っているが、いやはや灯台に寄せるほとばしるほどの愛情が素晴らしい。灯台に関する知識も深くて、ちょっと古い表現になるがまるで灯台博士だ。 内容的には、灯台マニア養成講座であ…

日本橋BOOKCON

(写真1 会場の様子)本の新しいコンベンション 日本橋の丸善で、日本橋BOOKCON(ブックコン)というイベントが先週行われていた。 約80の出版社が出展していて、それぞれがブースを構えて新刊の案内などを行っていた。 ブックフェアの小型版のようだが、…

中村元『水族館哲学』

独自視点で水族館の魅力掘り起こす 著者は水族館プロデューサー。サンシャイン水族館などを手がけたらしい。 その水族館を知り尽くした著者が、全国の主だった水族館を紹介しているのだが、その視点が極めて独特。それは、水族館は単に子どもの教育や魚マニ…

R・D・ウィングフィールド『フロスト始末』

愛すべきフロストはどこへ? ロンドンから70マイル、イギリス北西部の地方都市デントン署のフロスト警部を主人公とする人気シリーズ。相変わらず次から次へと難事件が持ち上がりフロストが右往左往する抱腹絶倒の物語である。 常連のデントン署の面々が個…

佐藤正午『月の満ち欠け』

「ちょっと死んでみる」 直木賞受賞作である。 面白い。先へ先へと進みたくなりページをめくる手がもどかしくなるほどだ。ただ、文章は練達の小説家を思わせる滑らかさなのだが、物語がややこしくてしばし手が停まる。 単行本300ページを超す長編だが書き…

沼田真佑『影裏』

文学青年の書いた小説 文学青年の書いた小説というのが第一印象。よく出来ているし面白い。この数年来の芥川賞受賞作の中では出色の出来ではないか。いたずらに新しさに走らず落ち着いた文章で淡々としているが、綴られる内容は濃密である。 盛岡に転勤して…

原田マハ『いちまいの絵』

絵とのドラマティックな出会い 26枚の絵が取り上げられている。それも単なる作品紹介ではなくて、著者自身のそれぞれの絵との出会いや印象があたかも肉声で語られているし、加えて画家のこと、美術史における位置などについてコンパクトにまとめられており…

荒川区に吉村昭記念文学館

(写真1 再現された書斎の様子)ゆいの森あらかわ内 先日、このブログABABA'sノートに三陸鉄道北リアス線島越駅の吉村文庫について書いたら、友人から荒川区にこんなのがあるよと言って吉村昭記念文学館を紹介された。 吉村は荒川区の生まれで空襲で家が焼…

藤田宜永『喝采』

魅力ある探偵の登場 主人公は私立探偵浜崎順一郎。事務所は新宿の歌舞伎町である。31歳の時、父の急逝で受け継いだ。父は警察を辞め探偵事務所を開いていた。その頃浜崎は不動産ブローカーをやっていた。少年院に世話になっていたこともあった。 事件への…

マイ・シューヴァル+ペール・ヴァールー『バルコニーの男』

新訳のマルティン・ベックシリーズ 柳沢由実子訳によるマルティン・ベックシリーズの新訳シリーズ。本作は4作目だが、日本語版発行は原作とは刊行順序が違っていて、原作では3作目。初訳は、高見浩訳で1971年の刊行だった。なお、高見訳が英語版からの重…

今野敏『自覚』

隠蔽捜査5.5 隠蔽捜査シリーズ短編集の第2弾。シリーズは長編5作まで進んでいるが、3作目の後に短編集第1弾が隠蔽捜査3.5として割り込んでいて、本作は5作目の後を受けたもの。なかなか面白いシリーズナンバーの振り方だ。 主人公はキャリア警察官…

譽田亜紀子『土偶のリアル』

土偶の魅力やさしく紹介 著者は、土偶に魅入られた土偶の研究者であり、土偶の魅力を伝える活動を行っている。 土偶とは、「およそ一万五〇〇〇年前から二四〇〇年前まで続いたとされる縄文時代に作られた、人形(ひとがた)の土の焼物」と冒頭述べている。 …

髙村薫『作家的覚書』

骨太の時評集 多くは2014年から2016年までの期間に「図書」や読売新聞、京都新聞などに掲載された時評が収録されている。 相変わらずこの人の時評は、調査を吟味し熟慮を重ねた上で慎重に筆を進めているという印象で、事象に対して直角に切り込んで…

マイ・シューヴァル+ペール・ヴァールー『煙に消えた男』

マルティン・ベックシリーズの新訳 スウェーデンのおしどり作家が1年に1作ずつ10年にわたって書き連ねて、今や警察小説の古典と言われるマルティン・ベックシリーズ。本作は原作2作目で1966年の刊行。日本では高見浩訳で1977年に『沈黙する男』と…