ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

芦川智編『世界の水辺都市への旅』

都市と水の文化論

 現在の都市には、水との歴史がそのまま都市の形態となって現れている例も多く、こうした歴史や都市形成の背景をたどることは、都市の魅力を理解する一助となるとしている。
 30を超す世界の様々な都市が取り上げられている。これらは小さなカテゴリーでくくられていて、「河川に沿う」ではサラマンカ、リスボン、ワルシャワが取り上げられ、「水道橋をつくる」ではオビドス、セゴビア、イルヴァシュといった具合である。
 それぞれの都市に足を運んで調査を行っており、その都市の歴史が概観され、現在の都市の概要がスケッチされている。
 とくに、航空写真をもとに描かれたものであろうか、俯瞰図は都市の様子を描かれていて興味深い。また、各都市で広場が取り上げられていることが多いのもこの著者編者らの活動の延長を示しているようだ。
 一つ拾ってみよう。まずはポルトガルのリスボン。〝テージョ川に沿う大航海時代の都市〟と表題され、イスラムに支配された時代を持つリスボンの歴史が取り上げられ、海洋国家としてのリスボンが紹介されている。リスボンはまた水供給が常に課題となっていて、アグアス・リブレスと呼ばれる水道橋が18世紀に建設されてきた。全長941メートル。
 カラーイラストの俯瞰図には、微細な街並みが描かれて面白い。ただ、私はこのリスボンに1週間ほど滞在した経験があって知っているのだが、リスボンは丘の斜面に住宅が配置された街で、急斜面を結ぶケーブルカーが街のあちこちで運転されていてリスボンの風物詩ともなっているのだが、このことが紹介されていないのは残念だった。細かいイラストだし、組み込めなかったのであろうし、ケーブルカーということについては、私が鉄道ファンなのでことのほか思い込みが強いせいでもあろう。
 なお、著者は芦川智、金子友美、鶴田佳子、高木亜紀子。
(彰国社刊)