ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

松本清張『松本清張推理評論集』

1957-1988

 松本清張(1909-1992)のミステリに関する評論集であり、作家論で構成されており、ある種、清張一流の小説作法であり文章読本でもある。
 清張は、推理小説の根幹はトリックと意外性にあるといい、「推理小説を書いてみて、これは、つくづく頼まれてから書くものではないと思った。推理小説ほど着想が独創性と新工夫を要求されるものはない」とし、「ところが、着想というものは、そう頻繁に湧いてくるものではないから、依頼の頻度には追いつけないのである」とし、「年をとっても少しも衰えをみせぬアガサ・クリスティーのような婆さんは、どこでどのような方法で着想を得ているものか知りたいものだが」、「ぼくの場合は、やはり風呂だとか、トイレの中とか、電車とかバスとかに揺られているときが多い。つまり、ぼんやりしているときがよろしい」と。
 「新聞に心中が出ると、男と女を他人が別々に殺して死体を一緒に置いていたら(『点と線』)と思ったり、山林中から腐乱死体が発見されて、死後何カ月と推定される、と書かれていたら、死体を短時間にそのような状態にさせる薬液があったらアリバイがつくれる(『眼の壁』)と思ったり、身元不明の行路病死者があると、これを身がわりに使えないか(『巻頭句の女』)と思ったりする」と。
 清張は作品を書くにあてって精密な設計図を書いておくのだそうで、清張らしいと言えば、良妻を持つ作家に文豪はいないということであり、推理小説はもっと生活を書きなさいというのも清張らしいところ。
 清張のミステリーは好んで読んできたし、原作が映画化されることも多かったが、実のところ、清張の評論というのも、まとめてきちんと読むことはこれまでなかったから、本書はとてもいい機会だった。
(中央公論新社)