ABABA’s ノート

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李泉『一冊で分かる中国史』

読みやすく面白い

 A5判で688ページもある。まことに大部。しかし、読みやすく面白い。2日間で読み切った。
 プロットが物語的だし、通俗的歴史の読み物を心がけているところが読みやすくしている。
 しかも、中国5千年の歴史を一人の著者が一気に書き上げたところがいい。これは画期的。だから、執筆が滑らかで連続性がある。
 中国の歴史書というと、数巻にまたがる場合は特に、時代区分ごとに筆者が代わることが少なくなく、自分の専門分野を集中して分担するということが多い。これまで日本では貝塚茂樹の『中国の歴史』(岩波新書上中下)が本格的通史だった。その貝塚が同書の中で、(1巻1時代ごとの)断代史をつなぎ合わせても通史にはならないと書いていたが、本書を読んで改めてその意を強くした。
 著者は、1949年生まれ。山東省出身。聊城大学教授。主に中国古代史の教学と研究に従事してきた。多くの教学科学研究成果が国家級省級の褒賞を受けてきたと巻末のプロフィールで紹介されている。
 本書は、それぞれの時代の小節が三つのコアで構成されている。まず、大きな紙面を活用してページの下段に年表を配置している。この編年体の年表によって歴史の発展変化の手がかりが簡潔に示されている。
 二つ目が、時代ごとの歴史背景の説明。わずか1ページ分だが、その時代について簡潔に記されている。
 例えば、秦・前漢・後漢については、次のような記述が見られる。
 秦朝(前二二一~前二〇六)は、中国の歴史上はじめての、多民族からなる統一された中央集権皇朝です。秦朝が統一後に敷いた皇帝制、三公九卿制、郡県制等の政治制度や軍事・法律制度は、中国の二千数百年にわたった君主専制制度に極めて深く大きな影響を与えます。
 簡潔を旨としながら孔子に関する記述が多い。6ページにもわたっているのである。「孔子は中国古代の偉大な思想家、政治家、教育者で、需家の学派の創始者です」などと全国行脚した孔子の足跡が詳しく紹介されている。
 三つ目の本文では、まさしく物語風の展開です。読みやすく、まるで小説を読む面白さである。しかも、ここでは関連知識の項目がリンクされており、三つにわたった記述が簡潔に整理されている。
 つまり、中国5千年の歴史を一冊にまとめるという難題に対し工夫が施され有機的なつながりが持たされているという画期的な構成になっている。
 なお、物語風とはいいながら、「内容的にフィクションは皆無で、言葉づかいの面でも過多な叙述や描写は極力避けるようにしました。筆者は文学的なタッチで史実を誇張するのでなければ、パロディー的な手法で歴史の素材を加工し、大衆をあっと言わせてその歓心を買うリクレーショナルなファストフードを作ろうというのでもなく、単に生き生きとして分かり易い文字を通じて相対的に正確な歴史の真相を還元しようと思ったに過ぎません」と前書きで記述している。
 なお、中国の歴史では、漢文・唐詩・宋詞・元曲というように各時代には文学的事象があるのだが、本書にはこのことに関する言及は見られなかった。渡邊英子訳 。
(樹立社刊)