ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

03 読書ときどき映画あるいは美術

牛山隆信『追憶の秘境駅』

秘境駅は滅ぶのか⁉ 著者牛山隆信には秘境駅訪問家の肩書きもあるほどに秘境駅第一人者。秘境駅は滅ぶのかとの副題があり、廃止と隣り合わせの秘境駅BEST100とある。 秘境駅とは、地域の産業が廃れ、人々が去ったことで、なし崩しに生まれた鉄道駅の形…

池澤夏樹『また会う日まで』

(写真1 写真上が単行本、下が新聞切り抜きの束) 朝日新聞朝刊連載小説が単行本化 朝日新聞朝刊に2020年8月1日から2022年1月31日まで連載されてきた同名小説が書籍化された。連載回数は531回に及んでいたが、単行本も727ページとまこと…

今尾恵介監修『日本鉄道大地図館』

地図変遷に見る鉄道の歴史 日本に鉄道が開業して150年。この150年間を地図でたどったのが本書。ちょうど150点の地図が掲載されている。 本書の魅力は三つ。一つはA3判というその大きさ。見開きにすればA2判という大きさで、上製本の重さがなん…

野口田鶴子朗読『釜石の風を読む』

照井翠エッセイ集 「声で伝える東日本大震災の記憶」CDである。 野口さんは、朗読家。声楽家としてイタリアに学んでいたが、局所ジストニアのため声楽の道を断念、朗読家に転じ、宮澤賢治作品の朗読を手がけ、イーハトーブ省奨励賞を受賞している。現在は…

佐伯祐三展

(写真1 会場で配布されていたチラシから引用=画中の絵は<郵便配達夫>)自画像としての風景 東京ステーションギャラリーで開催されている。代表作100余点が展示されており、大回顧展となっている。 1年前に開館した大阪中之島美術館のこけら落としで展…

土橋真監修『全国駄菓子屋探訪』

成長と変化が続く 駄菓子屋とは懐かしい。もはや見かけることもなくなったと思っていたが、とんでもない、わずかずつだが今でも増えているそうである。 本書は、駄菓子屋に魅せられて果ては全国の駄菓子屋をこつこつと探し歩いた成果。 それにしても、駄菓子…

日本財団 海と灯台プロジェクト『海と灯台学』

貴重な写真を駆使 灯台学とはやや堅苦しいが、灯台について、その歴史から関わった人物、技術などについて概説されている。 とにかく貴重な写真を駆使して多彩な視点で書かれており灯台を知る上でちょっと贅沢な一冊だ。 本書魅力の一つは豊富で美しい写真の…

今野敏『審議官』

隠蔽捜査9.5 隠蔽捜査は、キャリア警察官竜崎伸也を主人公とする人気シリーズ。竜崎は警察庁長官官房総務課長から息子の不祥事があって警視庁大森署長に飛ばされていた。官房総務課長はエリート中のエリートで、身分は警視長。対して所轄の署長はせいぜい…

大修館書店編集部編『品格語辞典』

改まった場面で遣う言葉 品格語とは、「ふだんづかいの言葉に対し、改まった場面で使える言葉」とのこと。 いつの時代でも年配の者は特にそう感じるのだろうが、それは世の中の変化に追いついていないだけのこと。 それにしても、この頃の若い人たちの言葉遣…

映画『ある男

(写真1 映画館で配布されていたチラシから引用) 石川慶監督作品 冒頭、きれいに額装された絵。美術館かもしれない。絵には、男の後ろ姿。そのすぐ後にも男の後ろ姿が重なっている。姿見を見ているのかもしれない。しかし、それでは理屈に合わない。さらに…

大沢在昌『黒石(ヘイシ)』

新宿鮫XII 新宿署生活安全課鮫島刑事が主人公のシリーズ。12巻目。第1巻が1990年だったからはや30年を超すロングラン。ただ、新宿を舞台にしながら毎回凝ったストーリーが創りだされて新鮮さが続いている。キャリア警察官ながら内部の抗争により一…

瀬戸賢一・宮畑一範・小倉雅明編著『[例解]現代レトリック事典』

72の分類で例示 そもそもレトリックとは、修辞のこと。文章を美しくしたり、印象深くしたり、意味深くしたりする文章技術のこと。 本書は、このレトリックについて、アイロニー、引喩、三例法、メタファーなど72の分類にまとめて例解を示している。 一つ…

李泉『一冊で分かる中国史』

読みやすく面白い A5判で688ページもある。まことに大部。しかし、読みやすく面白い。2日間で読み切った。 プロットが物語的だし、通俗的歴史の読み物を心がけているところが読みやすくしている。 しかも、中国5千年の歴史を一人の著者が一気に書き上…

芦川智編『世界の水辺都市への旅』

都市と水の文化論 現在の都市には、水との歴史がそのまま都市の形態となって現れている例も多く、こうした歴史や都市形成の背景をたどることは、都市の魅力を理解する一助となるとしている。 30を超す世界の様々な都市が取り上げられている。これらは小さ…

AMTECH(アムテック)創刊号

アディティブマニュファクチャリング情報誌 AM(アディティブマニュファクチャリング)とは、積層造形技術のことで、レーザや電子ビーム、アークを熱源として金属などの材料を1層ずつ積み上げて構造体を造形する方法。とくに、3Dプリンターの活用によっ…

杉山忠義『テッコツ!』

知られざる鉄骨の世界 鉄骨とは、ビルやスタジアムから電波塔まで建築物の骨組みとなるもので、鉄骨は、鉄工所で鋼材を加工し、それらの部材を複雑な形に溶接し、検査を経て建設現場に出荷されて組み上げられる、と紹介している。 世界一の電波塔東京スカイ…

文=リウ・スーユエン、絵=リン・シャオペイ『きょうりゅうバスでがっこうへ』

人気シリーズ第2弾 台湾の絵本。『きょうりゅうバスでとしょかんへ』に続く人気シリーズの第2弾。 きょうりゅうバスがこどもたちをのせてがっこうへむかいます。こどもたちはねぼうするこやずるやすみするこはひとりもいません。だって、がっこうのばすは…

ポール・オースター『ガラスの街』

ニューヨーク三部作の第一作 現代アメリカ文学を代表する作家であるポール・オースターの、『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』と続く、これがいわゆるニューヨーク三部作の第一作。 そもそものはじまりは間違い電話だった。真夜中にベルが三度鳴り、向こう側の…

唐嘉邦『台北野球倶楽部の殺人』

台湾のミステリー これは珍しい台湾のミステリーである。ミステリーの醍醐味とともに、戦前の日本統治下の台湾の鉄道や社会事情が描かれていてまことに興味深い。 昭和13年10月31日。台北。 北鉄新店線の終着駅北鉄萬華駅に到着した車内で男が一升瓶を…

駅すぱあと社員『乗り鉄エキスパート』

鉄道ファン初心者への指南書 駅すぱあとは、乗換案内ソフト。著者はここの社員4人。いずれも乗り鉄とのこと。 鉄道ファン初心者あるいはこれから鉄道ファンを目指そうとする人たちへの指南書。 まずは、旅の目的は何かとあり、旅の計画を立てよう、計画の立…

映画『3つの鍵』

(写真1 映画館で配布されていたチラシから引用) それぞれの道 ローマにある同じ高級アパートに3つの家族が住んでいる。 3階に住む夫婦で裁判官という家族の息子が酔っ払い運転で女性をひき殺してしまう。父親は息子がこどもの頃から厳格で、このたびの…

ポール・ペンジャミン『スクイズ・プレー』

ポール・オースターの別名義作品 現代アメリカ文学を代表する作家であるポール・オースターが、オースターとして世に認められる前、別名義で書いた処女作である。1982年の作品で、これが私立探偵を主人公に据えた正統派ハードボイルドというのもオースター…

映画『川っぺり ムコリッタ』

(写真1 映画館に掲示されていたポスターから引用) 荻上直子監督作品 荻上直子監督作品。新作が出れば必ずといっていいほど観に行く監督の一人。「かもめ食堂」「めがね」「トイレット」「彼らが本気で編むときは」などと好んで観てきた。このたびの新作は…

デイビッド・T・ジョンソンほか『検察審査会』

日本の刑事司法を変えるか 検察審査会とは、検察官が下した不起訴処分を検証し、事件の再捜査や起訴すべきかを決定する仕組み。11人の市民で構成される組織である。裁判員制度と並んで日本の刑事司法制度のもう一つの市民参加の形態。日本のこの検察審査会…

『三浦千波展』

(写真1 会場で自作の作品をバックに三浦千波さん) 豊かな色彩に感服 2年ごとに開かれている三浦千波さんの個展。会場はいつもの銀座の兜屋画廊。 会場に入ってびっくりした。明るい色彩の作品が多いのである。私は三浦さんのファンで個展は必ず見ている…

こにしけいほか『しまずかん』

こども向けの解説書 日本の離島が紹介されている。イラストが豊富でページをめくるのが楽しくなる。当然、文章もやさしい。全部で50の島がとりあげられており、それぞれの島の成り立ちや概要がわかるようになっている。 一つ引いてみよう。 悪石島(あくせ…

松本清張『松本清張推理評論集』

1957-1988 松本清張(1909-1992)のミステリに関する評論集であり、作家論で構成されており、ある種、清張一流の小説作法であり文章読本でもある。 清張は、推理小説の根幹はトリックと意外性にあるといい、「推理小説を書いてみて、これは…

映画『オフィサー・アンド・スパイ』

(写真1 映画館で配布されていたチラシから引用) ロマン・ポランスキー監督作品 『戦場のピアニスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』などで知られる鬼才ロマン・ポランスキー監督作品。89歳という。久しぶりの作品だが、まったく衰えを見せない重厚な映画だ…

川上昌裕『限界を超えるピアノ演奏法』

音楽家を目指すヒント 著者川上昌裕は、世界的天才ピアニスト辻井伸行を育てたことで知られる。 そのエピソードが興味深い。 辻井が小学1年、川上がウィーン留学から帰国して間もないころ、初めて彼の自宅で会った際、優れたバランス感覚、正しく鋭敏な音感…

ドナルド・E・ウェストレイク『ギャンブラーが多すぎる』

巨匠ウェストレイク幻の逸品 いやはや驚いた。今頃になってウェストレイクの新作が読めるなんてびっくりした。もっとも、本作は1969年の作品で、日本ではこのたび初めて訳されたのだけれど。 ドナルド・エドウィン・ウェストレイク(1933-2008)は…