(写真1 映画館で配布されていたチラシから引用)
石川慶監督作品
冒頭、きれいに額装された絵。美術館かもしれない。絵には、男の後ろ姿。そのすぐ後にも男の後ろ姿が重なっている。姿見を見ているのかもしれない。しかし、それでは理屈に合わない。さらに、その絵を見る男の後ろ姿。三人とも明らかに同じ男だ。どういう意味があるのか。この絵のことはその後登場することはなく忘れていた。
文具店で働く里枝。離婚して息子と二人暮らし。毎日のように画材を買いに来る男大祐。やがて付き合うようになり結婚する。こどもももうける。
大祐は、ボクシングジムに通うと、めきめきと才能を伸ばし、新人王戦の挑戦者となるが、大祐は突然そこでジムから遠ざかる。どうも、新人王となって脚光を浴びることを敬遠したようだった。とにかく口数の少ない男。 働いていた伐採の仕事で、切ったばかりの木の下敷きになるという不慮の事故で命を落としてしまう。
伊香保に住んでいるという兄に連絡すると、弔問に訪れた兄は遺影を見て「これは大祐ではない」と断じる。
里枝は弁護士の城戸に大祐の身元調査を依頼する。奇妙な依頼だったが、城戸は大祐をともあれXと仮定し身元を捜す。しかし、身元を隠して生きてきた男の生い立ちを調べるのは容易ではない。
夫大祐として生きてきた「ある男は」一体誰だったのか。愛したはずの男は名前すらわからなかったのだ。
調査を進めるうちにXの実像がわかってくる。しかし、その男は別人として生きてきたのか。
人間の実存すら問われることとなっていく。弁護士の城戸にも隠しておきたい過去があったのだったが、それすらもあぶり出されていく。
「本当の姿を知る必要があるのか」という里枝の言葉が重い。
ラストシーンで、冒頭に出ていた絵を見る男の姿が映し出され、やっとその意味にたどり着けた.。ミステリアスであり、人間の存在に迫ってなかなか面白い映画だった。
なお、原作は平野啓一郎の同名小説。