ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

野口田鶴子朗読『釜石の風を読む』

照井翠エッセイ集

 「声で伝える東日本大震災の記憶」CDである。
 野口さんは、朗読家。声楽家としてイタリアに学んでいたが、局所ジストニアのため声楽の道を断念、朗読家に転じ、宮澤賢治作品の朗読を手がけ、イーハトーブ省奨励賞を受賞している。現在は東日本大震災の記録を語り伝える活動を行っている。
 照井さんは、俳人でありエッセイスト。岩手県釜石高校の教員の折、東日本大震災により被災している。句集『竜宮』やエッセイ集『釜石の風』などがある。
 CDをかけると、心の底から絞り出したような声が聞こえてくる。照井さんがいみじくも「野口さんの声は、憑依の声、異界の声」といい、此の世と彼の世の「あはいの声」と表現する声である。
 照井さんは、被災直後の釜石高校での避難所生活や釜石市内の様子、人々の様子を率直に綴っている。大げさな誇張がないだけに腹に響く。
 津波が襲った日から、照井さんは生徒たちと体育館で一ヶ月もの避難所生活を余儀なくされた。生徒たちは、1枚の毛布に5、6人がくるまって寒さに震えていたという。これは夢なのか、此の世に神はいないのかと慟哭する。
 句をいくつか拾ってみよう。
 春の星 こんなに人が 死んだのか
 泥の底 繭のごとくに 嬰と母
 野口さんは、千年に一度の震災というならば、千年語り継がれなければならないとの思いでCDを制作したのだという。
 けだし、震災から十二年を経て鎮魂の思いを強くした。