ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

上岡直見『自動車の社会的費用・再考』

クルマ強制社会に

 1974年に岩波新書で上梓された宇沢弘文の『自動車の社会的費用』は、相当な物議を醸したものだった。社会的費用という新しい概念が新鮮だったし、増大するクルマ社会への警鐘とも受け止められた。そして何よりも、自動車の所有者・使用者は本来負担すべき費用1台あたり年間200万円を払っていないとする計算には極めて具体的で驚かされたものだった。
 あれから48年。著者は、宇沢の論説を再考してみたのが本書である。
 〝クルマ強制社会〟というのが特徴で、「現在では、大都市を除けば車の利用を前提として地域と人々の生活が組み替えられてしまったことにより、多くの人にとって車の使用は強制に近くなっている」とし、「自動車の普及は、鉄道・バスなど特に地域の日常の移動に必要な公共交通を破壊してきた」と指摘している。
 宇沢の論説以降のこの50年弱のクルマ社会の変遷について詳細な検証がなされているが、クルマは社会の負であるという論調が中心となっており、かといって、負からの解決策が具体的に示されているわけでもなく、宇沢がぶち上げたクルマの社会的費用〝200万円〟に対して、50年経ってどれほどに増えたのか減ったのかストンとわかる具体的数値が示されなかったのは残念だった。
(緑風出版刊)