新宿鮫XII
新宿署生活安全課鮫島刑事が主人公のシリーズ。12巻目。第1巻が1990年だったからはや30年を超すロングラン。ただ、新宿を舞台にしながら毎回凝ったストーリーが創りだされて新鮮さが続いている。キャリア警察官ながら内部の抗争により一介の所轄署警部に飛ばされながら一匹狼として活躍する爽快感が持ち味。何事にも妥協しない強さからやくざからも〝新宿鮫〟としておそれられている。
さて、本作は、複雑な正体不明の事件。
茨城、千葉、埼玉で死亡事件が発生していた。ただ、各県警はそれぞれに事件性は認めず、交通事故などと判断して処理していた。
ただ、中国残留三世の動きを捜査していた新宿署生活安全課の鮫島警部や阿坂課長、矢崎刑事に鑑識の藪らは、手口に不審なものを認め、関連を疑っていた。金石(ジンシ)という組織が浮上し、そのリーダー格に八石という存在が浮かんできた。
そんな折、高川という男から、金石から自分の身を守って欲しいという矢崎を通じて接触を受ける。高川はもともと金石のメンバーだった。
八石は、元来がネットワーク型の組織で、AとBは知り合いだが、AとCは面識もないというつながり。指令を出しているのは徐福という存在。それもインターネットで繋がっているだけで、徐福がどこに住んでいるかも知れない。大連という情報もある。
高川が言うには、徐福がこの頃になって組織を緩いネットワーク型からピラミッド型に変えようとしていて、邪魔な存在を駆除しているとのこと。
実行役に浮上してきたのがヒーローと自称する男。黒石(ヘイシ)と呼ばれ、テロリストである。徹底して自分の存在を世の中から薄め、慎重に行動する。ターゲットの駆除方法は鉄亜鈴のようなもので頭を叩き潰すという残酷なもの。しかし、凶器の特定はできていない。
とにかく正体不明の複雑に絡み合った事件。徐福とは何物なのか、黒石とはどんな男か。
鮫島の執拗な追求が行われる。何物もないがしろにしない鮫島の捜査である。矢崎はそもそも公安から入り込んできた刑事なのだが、次第に鮫島のシンパとなっていく。
ラスト、徐福と黒石の関係には想像がついた。しかし、そこには二人の悲しい物語が絡み合っていた。それは中国残留孤児帰国二世三世の母国はどこかという難しい問いかけだた。
(光文社刊)