ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

ポール・オースター『ガラスの街』

ニューヨーク三部作の第一作

 現代アメリカ文学を代表する作家であるポール・オースターの、『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』と続く、これがいわゆるニューヨーク三部作の第一作。
 そもそものはじまりは間違い電話だった。真夜中にベルが三度鳴り、向こう側の声が、彼ではない誰かをもとめてきたのだ。
 冒頭の2行である。いきなりぐいと惹きつけられる。
 ニューヨークは尽きることのない空間、無限の歩みから成る一個の迷路だった。どれだけ遠くまで歩いても、どれだけ街並みや通りを詳しく知るようになっても、彼はつねに迷子になったような思いに囚われた。
 透明感あふれる文章。これが現代アメリカ文学である。柴田元幸の訳が断然いい。アメリカ文学を手がけて第一人者である。
 そもそも奇妙な依頼で、グランドセントラル駅に到着するスティルマンなる男を尾行し当家に害を及ぼさないよう見張っていて欲しいというものだった。
 スティルマンのことはすぐに確認できたのだが、スティルマンは朝ホテルを出ると闇雲にただ歩く。この行動が毎日続く。
 尾行しているのは、ポール・オースターなる私立探偵。しかし、この追跡行はいつまで続くのか、見当もつかない。出口が見えないのである。
 やがて探偵はスティルマンをあろうことか見失ってしまう。
 結末を急ぎたくなると、この小説の面白さは見失ってしまう。ストンとわかるような結末などないのである。そもそも探偵小説だと決めつけて読むと失敗する。
 巻末の訳者あとがきで柴田は、1985年、オースターが17の出版社に本書の原稿を持ち込んでも、ことごとく断られたというエピソードを紹介している。そして、それは本書が探偵小説の枠組みで書かれているからで、それでいて、結末を明かさないことに編集者は却下の烙印を押したのであろうということだった。
(新潮文庫)