ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『川っぺり ムコリッタ』

(写真1 映画館に掲示されていたポスターから引用)

荻上直子監督作品

 荻上直子監督作品。新作が出れば必ずといっていいほど観に行く監督の一人。「かもめ食堂」「めがね」「トイレット」「彼らが本気で編むときは」などと好んで観てきた。このたびの新作は小林聡美も片桐はいりももたいまさこも出ていなかったけれど、松山ケンイチ、ムロツヨシが出ていて好演していた。江口のりこは荻上作品の常連に加わりそうだ。
 舞台は富山。富山地方鉄道がよく似合っている。行き先表示の岩峅寺は地元の人でもないと読めないかもしれない。いわくらじと読む。名駅舎で知られる。
  松山ケンイチ演ずる山田たけしが出所して水産加工会社で働き始める。イカをさばき塩辛をつくるのが仕事だ。
 社長の紹介で住み始めたアパートがハイツムコリッタ。鉄橋に近く、川にも近い。山田は仕事場でもアパートでも他人とはあまり接触しないようにしている。
 隣家の島田幸三は、とにかく厚かましくて、風呂を勝手に入りに来て、ごはんを炊くと山盛りにして食べる。おかずは、山田が仕事場からもらってきた塩辛。
 島田はアパートの裏庭にある小さな畑を耕していて、キュウリやトマトをかじっている。自分ではミニマリストだといい、シンプルな生活を心がけている。
 アパートには、大家の若い女性南詩織とその娘や、墓石のセールスを生業とする男溝口健一とその息子などが住んでいる。
 一人を好む山田だが、厚かましく入り込んでくる島田の影響で、次第に付き合いが出てくる。
 とにかく食事の場面が多いのはいつもの荻上の作品。溝口が、大口の契約ができたといって息子とすき焼きを食べていると、匂いを嗅ぎつけて、山田や島田、南などが寄ってくる。全員茶碗と箸は自分のものを持参してくる。
 楽しい夕餉で、いつしか一つのコミュニティができていた。
 山田は、自分の犯した罪を悔いいており、ささやかな幸せを見つけても、「自分のようなものが幸せになっていいものか」と自問している。
 カメラワークが秀逸だった。派手さはないが、内面をさらりとえぐり取るようだった。
  なお、ムコリッタとは、仏教用語のようで、ささやかな幸せの意なそうだ。