ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『オフィサー・アンド・スパイ』

(写真1 映画館で配布されていたチラシから引用)

ロマン・ポランスキー監督作品

 『戦場のピアニスト』や『ローズマリーの赤ちゃん』などで知られる鬼才ロマン・ポランスキー監督作品。89歳という。久しぶりの作品だが、まったく衰えを見せない重厚な映画だ。私自身は10年ほど前になるか、『ゴーストライター』以来だ。
 ここでいうオフィサーとは士官のこと。原題はJ'ACCUSEとあり、非難するあるいは告発するという意味か。
 世に言う「ドレフュス事件」が題材。19世紀末、フランス陸軍を揺るがした冤罪事件である。
 1894年、ユダヤ人の陸軍大尉ドレフュスが、ドイツへの軍事機密情報漏洩による国家反逆罪により軍法会議で終身刑が下され孤島悪魔島へ流される。
 一方、陸軍の防諜部長にピカール中佐が抜擢されて就任した。ピカールは着任するや次々と手元に届く対独情報を精査していくうちに、ドレフュスの決定的証拠とされた手紙が別人の筆跡だと気づく。
 ピカールは、この事実を軍の上層部に報告するが、上層部は取り合わないばかりか、執拗に追求するピカールを「墓場まで持って行け」と言って左遷する。
 ピカールは、私はフランスを愛している!陸軍を愛している!と叫び、軍人として内部告発はできないと悩みながらも正義と真実を求めながらリベラルな新聞人や知識人エミール・ゾラらに冤罪事件であること、軍上層部は事件そのものを握りつぶそうとしていることなどを訴える。やがて新聞がゾラの声明を載せると、国論を二分する大事件へと発展する。
 冒頭と終わりの映像がいい。
 まず冒頭。1895年1月5日。陸軍士官学校か。背景に遠くエッフェル塔が見えるから士官学校の校庭であろう。現在も同じ位置にあり、世界歴史遺産になっている。ここを借りて撮影したのであろうが、史実性が高まっている。
 ドレフュスが、隊列に組まされて進んでくる。ドレフュスは〝私は無罪だ〟と叫んでいる。軍法会議の判決が読み上げられ、軍籍剥奪が実行される。軍服の階級章やボタンがもぎ取られ、指揮刀が外され二つに折られる。軍籍剥奪が視覚的にも明確に実行される。軍人にとっていかに無念なことか。銃殺刑よりも辛いのではないか。
 二つ目はラスト。ピカールは出世して陸軍大臣に昇進している。ドレフュスが訪ねてくる。挨拶を交わしたあと、ドレフュスが、「私の階級を(時間経過に従って)正しいものにしてほしい。あなたは将官にまで昇っているのに」と訴えると、ピカールは「それはできない。規則が許さない」と言って却ける。
 このラストのシーンは、極めて印象的だ。ピカールもただの将官にすぎなかったと言うことか。
 なお、映画では全編にわたって〝反ユダヤ主義〟という言葉が何度も出てきた。10回ほどにも上ったのではなかったか。反ユダヤ主義批判が大きなテーマだったことがわかる。日本にいてはなかなかわかりにくいことだが、ヨーロッパでは再び反ユダヤ主義が喧伝されてきているらしいから、ユダヤ人ということで迫害を受けたポランスキーとして看過できないことだったのであろう。

 とにかく背景となる時代の描写が素晴らしい。主役のピカールを演じたジャン・デュジャルダンが素晴らしかった。