ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

フェルメール遍歴

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(写真1 オランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館の外壁に掲示されている「真珠の耳飾りの少女」の垂れ幕。手前に佇んでいるのは家内

魅せられて世界各地へ

 フェルメール好きだから、随分と世界中の美術館でフェルメール作品を見てきたが、オランダのハーグ(正式にはデン・ハーグ)にあるマウリッツハイス美術館で「真珠の耳飾りの少女」を初めて見たときの感激は忘れない。開館の1時間も前から並んでいて、オープンと同時に一番乗りで2階の展示室に迷わず駆け込んだ。展示室はあらかじめ調べておいた。家内と二人だけの静寂な展示室で青いターバンを巻いた少女がふっと振り向いて私たちにほほえんでくれた。まるで、今そこに少女がいるかのような感覚だった。できれば連れ去りたいという衝動を抑えるのに苦労したほどだ。それはここがマウリッツハイス美術館だったからではなかったか。それほどの存在感だった。
 この展示室には、「真珠の耳飾りの少女」の真後ろには「デルフトの眺望」も架けられていた。フェルメール作品では数少ない風景画の名画だが、まるでさりげなくてしばらく気がつかなかったくらいだ。おそらくフェルメール作品ほど静かに集中できる環境で見たい絵もないのではないか。微細だし、作品の世界に浸っていたくならせるからで、そういう意味で欧米の美術館は鑑賞者本位に運営されているように思われる。
 欧米の美術館に行って感心することは、自由な鑑賞環境だ。まるで絵に触れられる近さで見ることができるし、写真を撮ることも自由というところが少なくない。もちろん、押し合うほどに混んでいることもないからゆったりと鑑賞できることも喜ばしい。

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(写真2 メトロポリタン美術館のフェルメール作品のコーナー)

 フェルメール作品を数多く所蔵しているのは実はアメリカで、3都市4美術館に12点もある。
 このうちニューヨークのメトロポリタン美術館は、パリのルーブル美術館と並んで世界的にも巨大な美術館だが、フェルメール作品は5点もある。ニューヨーク観光の目玉にもなっている人気の美術館だが、フェルメール作品が展示されている部屋は奥まったところにあり、案内図を頼りに探していかなければ容易にはたどり着けない。そういうこともあってか意外にいつでもそんなに混んでいない。ただ、気をつけなければならないことは、5点揃っていることの方が少なくて、何かが貸し出されている場合がある。これは他の美術館においても往々にしてあること。よくよく調べていく必要がある。
 アメリカではワシントンのナショナル・ギャラリーがいい。中央駅であるユニオン駅や国会議事堂からもほど近い。この美術館は観光コースには入っていないようで、大方の場合空いている。だからゆったり鑑賞できるし、メトロポリタン同様写真を撮るにも自由だ。しかし、コレクションはすばらしくてしかも粒選りのものが並んでいる。
 フェルメール作品は3点あるいは4点ある。おかしな曖昧な書き方をしてしまったが、このうち「手紙を書く女」と「天秤を持つ女」の2点は一致して真作と認められているのだが、残る「赤い帽子の女」と「フルートを持つ女」の2点は識者によって評価が分かれているようだ。
 確かに、「赤い帽子の女」と「フルートを持つ女」は、2点ともに同じモデルのようだし、そのことはともかくそもそも私には女には見えない。もっとも、「赤い帽子の女」については近年真作とする評価が有力らしいが。
 しかし、1点数十億円もするフェルメール作品のこと、真作か否か美術館にとっても大きな問題だ。
 それにしても、フェルメール作品はなぜにこうももてるのだろうか。日常の一瞬を切り取って物語性があるし、光と影の使い方が絶妙で、緻密さが高い。神秘性があるという言い方もあるだろう。17世紀の画家だが、初期のころの作品はともかく、宗教性が弱いことも我々日本人にはことのほか親しみやすい。寓意性もあるのだが、絵の鑑賞を損なうほどにややこしくはない。そして、約35点という希少性も人気を高めているのかも知れない。
 実は家内もフェルメール好きで、このことでフェルメール行脚は随分とはかどった。海外旅行に行って好き嫌いが分かれないというのはこれはうれしいこと。どこを見るか、主導権を奪われないというのはありがたい。まあ、たいていの場合、ショッピングの時間さえたっぷり確保しておけば問題はないのだが。フェルメールを見に行こうということが旅行の動機付けにもなったから、このことでもフェルメールはありがたい。

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(写真3 ワシントン・ナショナル・ギャラリーに展示されているフェルメール作品。「手紙を書く女」を中央に左に「赤い帽子の女」、右は真作かどうか評価が分かれている「フルートを持つ女」)