ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

〝夢の湯〟

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(写真1 夢の湯外観)

会津高原尾瀬口駅前の一軒宿

 野岩線に乗っていると、長いトンネルを抜けて会津高原尾瀬口到着の車内アナウンスが聞こえたころ、左窓川向こうに一軒宿が見えてくる。駅から徒歩数分、〝夢の湯〟である。

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(写真2 野岩線電車から見た〝夢の湯〟)

 もう20数年前にもなろうか、初めてこの路線に乗った折、車掌さんに駅から近い立ち寄り湯はないかと尋ねたところ教えてもらったのがこの温泉だった。駅から近いこともさることながら、さっぱりした温泉が気に入って機会をつくっては訪ねてきている。このたびSL大樹を見学した折りに足を伸ばしたのが4度目だった。大晦日にも来たことがあった。
 〝夢の湯〟とは、主人が初夢でこの地に温泉がこんこんと湧き出している夢を見たので、その場所を掘ったところ温泉が湧き出したのでこの名をつけたとのこと。
 風呂はとても空いていてこの日も一人。この日は、駅に降り立つと粉雪が舞っていたほどでとても寒かったので温泉が心地よい。
 地下850メートルから汲み上げているとのことで、泉温は43度。泉質は単純泉で、さらっとして気持ちいい。足下から湧き出していて源泉掛け流し。湯船に浸かるとざあっとお湯が溢れるのがとてもいい。贅沢な気分になれる。
 熱い湯が好きな私にも湯温は絶妙で、ゆったりした気分で入れるから私にしては長湯になるが、気にせずに浸かっている。

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(写真3 ほてった体に心地いいビールとたくあん漬け)

 ほてった体を大広間で休める。ここを訪ねた四度ともそうしたのだが、この日もビールを頼んだところたくあん漬けがついてきた。温まった体にビールが滲みて、至福の時が過ごせた。温泉好きだが、これほどのんびり入れる温泉も少ないもの。福島県南会津郡南会津町滝原字向熊久保所在。

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(写真4 会津高原尾瀬口駅につながっているプラザ。レストランと売店がある)

野岩鉄道会津鬼怒川線

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(写真1 新藤原駅ホーム。右1番線は東武鉄道の折り返し列車で、左は東武線から野岩線、会津線、JR線と直通する会津若松行き特急リバティ会津111号)

首都圏と会津を結ぶ

 野岩(やがん)鉄道は、東武鬼怒川線の新藤原と会津鉄道の会津高原尾瀬口を結んでいる。旧国名の下野国と岩代国を結んでいるところからこの鉄道名となった。路線名称は会津鬼怒川線。全長30.7キロ、駅数は9。
 線内運転の列車は1本もなく、すべて鬼怒川線あるいは会津線との直通列車である。会津線は、すべての列車が終点の西若松から一駅先の会津若松まで延伸して運転されているから、この野岩線を間に、東武、野岩、会津、JR東の4鉄道を跨いで運転されている列車がある。首都圏と会津を結ぶ短絡線の位置づけもあり、浅草から1本の列車で最短4時間14分で会津若松との間を結んでいる。ちなみに、これがJRなら新幹線と磐越西線を乗り継いで約3時間となる。

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(写真2 野岩鉄道管理駅新藤原駅)

 さて、野岩線である。起点の新藤原は標高425.3メートルの地上駅。2面3線のホームがある。当駅止まりの東武線は車止めのある1番線に到着する。このホームの駅名標にはこの先の駅名は記載されていない。ただし、同じ駅名標の裏側、2番線側の駅名標を見れば、野岩線の次駅名がちゃんと載っている。駅前に住宅はあるが 商店などは見当たらなく、山間の小駅といった様子である。野岩鉄道の管理駅。
 新藤原を出るとすぐにトンネルに入る。そのまま次の竜王峡はトンネル内にホーム。右側に片側1線。ハイキングコースとして知られる。

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(写真3 鬼怒川に架かる小網ダム)

 左窓に鬼怒川が並行しており、途中にダム。小網ダムというらしい。川治温泉を出て鬼怒川を渡ったが、濃い緑色をした美しい川。次の川治湯元では右窓眼下に温泉街が望めた。
 次の湯西川温泉もトンネル内にホーム。トンネルを抜けると美しい湖。ダム湖であろう。

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(写真4 沿線のダム湖)

 とにかくトンネルと橋梁が多い。調べてみたら、トンネルの数は18、橋も64カ所もある。沿線に住宅はほとんどなく山間の路線である。何でも踏切は路線中1カ所しかないそうである。

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(写真5 温泉が続く沿線)

  温泉が多い。鬼怒川ほどの規模ではないが、川治、湯西川、中三依・上三依と温泉街が続く。それで、路線名には〝ほっとスパ・ライン〟の愛称がついている。

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(写真6 会津高原尾瀬口駅。野岩鉄道と会津鉄道との分界駅である)

 そうこうして長いトンネルを抜けると会津高原尾瀬口到着。野岩線の終点である。1面2線のホームがあり、会津鉄道との分界駅であり、会津鉄道の管理駅。この駅は福島県南会津郡南会津町にあり、野岩線唯一の福島県。構内にはいまは使われていない転車台があり、猿が群れていた。

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(写真7 会津高原尾瀬口駅の駅舎)

SL大樹と車掌車

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(写真1 下今市駅4番線に到着したSL大樹2号)

東武鉄道のC11325とヨ8709

 SL大樹とは、東武鉄道が鬼怒川線で運転している蒸気機関車の牽引による観光列車。大樹には必ず車掌車が連結されおり、この車掌車にはATSなど運行安全システムが搭載されており、SL機関士のサポートを行っている。
 大樹が運転されているのは下今市と鬼怒川温泉間3駅12.4キロ。2017年の運行開始で、通常は金土日月、夏休み期間中などは毎日運行され、家族連れでにぎわっている。
 編成は、先頭からSL+車掌車+客車3両に加え、鬼怒川方面に向かう下り列車には途中の勾配を考慮して最後尾にDLが補機として付いている。
 現在、東武では大樹を2編成保有して交互に運転している。1機目は、SLC11207号機と車掌車ヨ8634で、やや遅れて投入された2機目は、SLC11325号機と車掌車ヨ8709の組み合わせ。
 4月9日金曜日、下今市駅で大樹の運転状況を見学した。下今市駅は日光線も分岐する重要な駅で、SL大樹運転のために下今市機関区が設けられ、転車台や機関庫が配置されている。

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(写真2 転車台を使って入庫運転されているSLと車掌車)

 11時45分、鬼怒川温泉発のSL大樹2号が到着した。乗客を降ろすと、客車を切り離しいったんそのまま直進してすぐに渡り線を使って戻って転車台に載り、反転して機関庫に入った。
 転車台周辺は転車台広場になっていて、大勢の観光客が転車台で向きを変えて入庫する様子を興味深そうに見ていた。時折あがるSL特有の汽笛が叙情を高めていた。
 SL大樹2号は、C11型蒸気機関車C11325号機とヨ8000型車掌車ヨ8709の組み合わせ。325号機は真岡鐵道、ヨ8709はJR西日本から譲受されたもの。
 車掌車を外部からだがちょっとのぞいてみると、大きな鉄製の箱が置かれており、係員1名が乗っていた。鬼怒川線は電化区間だが、SLの運転においても安全運行の徹底を図っているものなのであろう。

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(写真3 SLに連結されている車掌車ヨ8709)

ポール・オースター『ブルックリン・フォリーズ』

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現代アメリカ文学の傑作

 ブルックリンが舞台。そのブルックリンが豊穣な物語を編んでくれた。
 マンハッタンの保険会社で働いていたネイサン・グラスは、停年を前に生まれ故郷のブルックリンに終の棲家とすべく戻ってきた。3歳のときに一家がブルックリンを離れてから56年ぶりだった。
 初めは何をしたらいいのかも思い浮かばない日々の中で、足繁く通ったのはブライトマン・アティックスという古本屋。経営者は派手な振る舞いの同性愛者ハリー・ブライトマン。
 この店でネイサンは、甥のトム・ウッドと出会う。7年ぶりだったが、トムは大学院をやめてブライトマンの店で店員をしていた。
 こうして、ネイサン、トム、ハリーの3人を軸に物語が進む。登場する人物造型が魅力的だし挿入される逸話がじつに秀逸。
 小説の面白さが詰まっている。離婚あり詐欺あり、同性愛ありと物語が転ぶが、伸びやかでいやらしさはなく心温まる。しゃれた会話があり、ボキャブラリーが豊富で、読んでいて思わず傍線を引きたくなる。
 娘レイチェルへの許しを乞う手紙。簡単に書けるものと踏んでいたがといいながら「人から許しを乞うのは厄介な仕事である。それは強情なプライドと涙ながらの悔恨との、微妙なバランスの上に成立する行為であり、相手に向かってすっかり心を開くのでないかぎり、どんな謝罪もうつろな嘘に響く」とある。
 とくに気がかりはトムの姪ルーシーの登場。つまりネイサンは大伯父さんということになる。わずか9歳半の女の子が一人でニューヨークまで訪ねてきたのだが、この出現によってトムやネイサンばかりかハリーまでもが家族を考えることとなる。
 いかにもオースターの小説という感じ。時折出てくる社会時評は辛辣なのだが、全般に心温まる物語の運び。
 ちなみに、タイトルのフォリーズとは、愚行の意。ネイサンが人生を振り返りつつ執筆している文章自体が数々の愚行が中身というわけである。
 とにかく柴田元幸の訳がいい。
(新潮文庫)

春うららか

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(写真1 色とりどりの花壇)

うれしい春暖の候

 うららかな春。思わず散策の足も伸びる。いつもなら1時間程度の散歩が、先日は2時間半にも及んだ。さすがに2時間を超すとやや疲れるが、足が痛くなるというほどでもない。
 冬が終わり春になって一斉に花が咲き色とりどり。春暖の候である。

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(写真2 チューリップユリの花)

 いつも通っている道だが、庭いっぱいに花を咲かせているお宅あって、このときは門扉のところに奥さんがいらして、きれいな花ですねと声をかけたら、ぱっくりとつかまってしまって、長々と話しかけられた。
 花の好事家にしてみれば、せっかくきれいに咲いた花のこと、誰かに気づいてもらいたいし、見てもらいたいもの。いろいろと解説してくださって、まるでユリのようだが、これもチューリップなのだという。それでチューリップユリという名だとも。なるほど、いわれてみればチューリップにも思える。

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(写真3 ハナミズキも咲いた)

 ハナミズキが咲き出した。私にとってはこれが咲き出すともう後戻りはしない本格的な春である。歌の文句にある通り薄紅色が可憐である。サクラを贈った返礼にアメリカからもたらされたことは有名な逸話。アメリカ人にしてみれば、サクラと同じ季節に咲く花として選んでくれたものであろうが、ハナミズキが咲くことで日本の春は鮮やかになった。
 切り花だが我が家の玄関にはカサブランカ。まことに豪華で大輪の花が特徴であり、強い芳香がある。ユリの一種だが、カサブランカユリとは呼ばないようだ。これは、タンチョウをタンチョウツルとは呼ばないのと同じ理屈か。

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(写真4 強い芳香と大輪の真っ白な花が美しいカサブランカ)

ピアノソナタ

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(写真1 ピアノ曲が収録されているCD集)

音楽の好みにも変化

 このごろは家にいる時間が長いから、音楽もよく聴いている。
 ただ、私は不器用で、音楽を聴きながら本を読んだり、音楽を聴きながら原稿を書いたりするということができない。BGMのつもりで音楽をかけるとそれは邪魔になるし、BGMにかけた音楽が気になって本来のことが散漫になる。
 だから、音楽はあくまでも音楽として聴いている。だからといって、かしこまって音楽と向き合っているわけではないが。
 もっとも、私は音楽好きではあるが、格別の音楽ファンというほどのものではない。その音楽にしてからが、クラシック、ジャズなどと何でもありで、我ながらいい加減。まあ、CDだけは数百枚は持っているし、図書館からも借りてきて繰り返し聴いている。どのような曲を聴くかは、その日そのときの気分次第なのだが、このごろでは圧倒的にクラシックが多い。それも、かつては交響曲や協奏曲、とくに弦楽四重奏曲が好きだった。
 それが、このごろではピアノ曲が多くなった。それもピアノソナタが。このことを音楽に造詣の深い友人に話したら、「それは歳のせいでしょう」という。つまり、歳を取るとシンフォニーなどのような長い曲は疲れるので、短い曲を好むようになるのだそうである。なるほどという気もするが、そのことはともかく、ピアノソナタ。ショパンの小品もいいが、複数の楽章を持つソナタが私にはちょうどいいサイズに思える。それならなぜコンチェルトではないのかと指摘もされそうだが。
 ピアノソナタならベートーベンか。生誕250年を迎えた昨年はベートーベン・イヤーということで繰り返しベートーベン特集がテレビなどで組まれ、ベートーベンのピアノソナタも紹介された。
 それで聴く機会が増えたのだが、全32曲といわれるベートーベンのピアノソナタ全曲を聴くことができた。
 それでわかったこと。ベートーベンは<運命>や<合唱付き>などがあまりにも有名で、交響曲にこそ真骨頂があるように思えてきたが、ピノソナタこそがベートーベンが心血を注いできたのではなかったかということ。
 とにかく美しい作品が多い。いずれも甲乙つけがたいが、好き嫌いだけで選ぶなら、<悲愴><月光><テンペスト><熱情>あたりか。音楽にさほどの造詣もないずぶの素人が僭越なことだが。
 ピアノ曲は多くの作曲家が書いているが、自身がピアニストだったリストやラフマニノフにも難解だがすぐれた作品がある。
 ソナタということではないが、ラフマニノフの<パガニーニの主題による狂詩曲>や<ヴォカリーズ>も、この作曲家の代表曲であろう<ピアノコンチェルト第2番>からは想像もできない繊細さが感じられて興味深い。

『日本語を学ぶ人の辞典』

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にほんごの会編集

 日本語を学ぼうとしている人や日本語を教えている人のための辞典。英語と中国語の対訳がついている。見出し語は1万1千語。総ふりがな、アクセント付き。
 とにかく、非常に丁寧で親切な編集である。日本語を母語とする人には必要がないようにも思えるが、日本語の微妙な言い回しもわかるようになっていて読んで面白い辞典。
 一つ引いてみよう。
 せんげつ【先月】センゲツ 今月のすぐ前の月、<英語>last month、<中国語>上月、上个月、「先月から今月にかけて3週間入院した」  <関連>今月、来月
 <参考>「前月」も似ているが、「前月」が「父は昨年の10月に死んだが、その前月までは元気で旅行したりしていた」のように、ある月からみてすぐ前の月をいうのに対して、「先月」はいまの月からみてすぐ前の月をいう。
 また、飲食店、駅と車内、銀行などといくつかのシチュエーションごとに囲み記事が設けられていて使い勝手がいい。<ごみを出すときに使うことば>では、ごみ袋、ポリバケツ、ごみ集積所、分別収集などとあって、生ごみ、不燃ごみ、粗大ごみなどとごみの種類まで載っている。
 さらに、「ている」と「てある」、「くらい」と「ほど」、「そこで」と「それで」、「そして」と「それから」などと日本語独特の言い回しについても例を出して解説してある。
 なお、本書は1995年の刊行で、新訂版2011年の発行だから念のため。私は最近になってその存在を知った。
 監修阪田雪子、編集主幹遠藤織枝、編集にほんごの会。(新潮社刊)