ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

土橋真監修『全国駄菓子屋探訪』

成長と変化が続く

 駄菓子屋とは懐かしい。もはや見かけることもなくなったと思っていたが、とんでもない、わずかずつだが今でも増えているそうである。
 本書は、駄菓子屋に魅せられて果ては全国の駄菓子屋をこつこつと探し歩いた成果。
 それにしても、駄菓子のことだけを書いて一冊の本になるものかとそのことにも驚いたが、全編カラーの写真が駄菓子屋に誘ってくれるから不思議だ。
 5円10円を握りしめて通った店。店には数百種もの雑多な商品が置いてあるが、それこそ5円10円で買えるようなものばかり。
 この頃では、商品が所狭しと並べられ積まれた駄菓子屋ばかりか、カフェが併設されていたり、ゲーム機が置かれた店などと新しい時代に即応した店もできているようだ。
 ただ私は年代差が大きすぎるようで、駄菓子屋に関する思い出がほとんどない。こどもが買い食いするなどということは行儀の悪いことだったのかも知れない。
(トゥーヴァージンズ刊)

日本財団 海と灯台プロジェクト『海と灯台学』

貴重な写真を駆使

 灯台学とはやや堅苦しいが、灯台について、その歴史から関わった人物、技術などについて概説されている。
 とにかく貴重な写真を駆使して多彩な視点で書かれており灯台を知る上でちょっと贅沢な一冊だ。
 本書魅力の一つは豊富で美しい写真の数々。
 表紙カバーが遠くまで光を放つ佐田岬灯台(愛媛県)で、ページを開くと、角島灯台(山口県)、鴛泊灯台(北海道)と続き、目次背景が真っ赤な灯塔の玉藻防波堤灯台(香川県)だ。
 1874年(明治7年)初点の犬吠埼灯台(千葉県)を取り上げて日本の灯台の歴史の緒に就いている。ちなみに犬吠埼灯台は六連島灯台、角島灯台、部埼灯台とともに現役の灯台として初めて国の重要文化財にしてされている。
 日本の灯台の歴史に欠かせない〝日本の灯台の父〟ヘンリー・リチャード・ブラントン。〝フレネルレンズ〟にその名を残すオーギュスタン・ジャン・フレネルらが紹介されている。ちなみに、ブラントンは日本で26基もの灯台建設を手がけている。
 また、灯台の維持、管理に常駐して業務を行っていた〝灯台守〟と呼ばれた人々についても取り上げている。家族ごと住み込みで灯台を守っていたのだが、灯台は辺地に多いわけだし、自然環境も厳しく過酷な生活と業務だったようだ。現在は、灯台業務の大半は機械化電子化され、灯台守は廃止された。
(文藝春秋刊)

ひな飾り

(写真1 わが家のひな人形)

桃の節句の年中行事

 3月3日は桃の節句で、女児の健やかな成長を願うひな祭りが年中行事。わが家でもひな人形を飾った。
 わが家では、こどもが娘二人だったし、孫たちも五人のうち四人が女の子。そういうことで、ひな飾りを行って祝っている。
 押し入れから人形の入った箱を引っ張り出して飾り付けるのだが、これがなかなか大変。
 まず、段飾りの段を組み立て、上段から順に飾っていく。もう40年以上もやっていることだから慣れてはいるのだが、細かいところは写真を見ながら丁寧に行っていく。お内裏様、三人官女、五人囃子、左近と右近、仕丁などと並べる。
 飾るときはまだ張り切っているからいいのだが、問題は後片付け。7段分の人形や道具類ともなると結構な箱の数になるし、小物類も多くて大雑把にはできない。
 うれしいのは、ひな人形を飾ると、嫁いだ娘たちが孫を連れて遊びに来てくれることで、この時期はいつでも華やぐ。

今野敏『審議官』

隠蔽捜査9.5

 隠蔽捜査は、キャリア警察官竜崎伸也を主人公とする人気シリーズ。竜崎は警察庁長官官房総務課長から息子の不祥事があって警視庁大森署長に飛ばされていた。官房総務課長はエリート中のエリートで、身分は警視長。対して所轄の署長はせいぜい警視正である。しかし、原理原則を厳守し、何事に対しても自己の考え貫き通す信念があって、署員の信頼は熱かったが、このたび風向きが変わったようで神奈川県警刑事部長に異動になっていた。県警刑事部長は警視長職でありやっとまっとうな地位に戻ったということか。
 本署は、隠蔽捜査シリーズの番外編みたいなもので、短編9編で構成されている。
 長編と違って、かえって、竜崎の考え方、仕事ぶり、対人関係、家族のことなどに加え、もちろん刑事ではないが、事件に対する洞察力、指揮ぶり、現場の尊重のことなども描かれていて興味深い。
 短編で面白いのは、長編ではあまり出てこない家族も登場することがあるからだ。
 本書でも、「内助」で妻の竜崎冴子が出てきたし、「荷物」で息子の邦彦、「選択」で娘の美紀が登場した。
 「内助」では、なんと冴子が事件解決の糸口を口にする。
 竜崎が署長を務める大森署管内で焼死体が発見されたというテレビニュースを見て冴子は妙な既視感を覚えた。いわゆるデジャブである。過去に似たような事件があって、その報道を見聞きしたときに感じたのと同じことを感じた、ということだと冴子は思った。
 火事は大田区内の住宅街で発生、一戸建てが全焼し、失踪していた28歳の女性が遺体で見つかった。
 冴子はもうすこし事件を調べてみることにし、新聞各紙を読んでみた。そして、過去に類似の事件がなかったか、娘の美紀の手を借りてインターネットで調べた。
 すると、〝空き家〟という言葉に既視感は反応していたことを冴子は感じた。空き家で若い女性が殺されていたのだった。
 二つの事件は共通点が多いことに冴子は気づいた。両方とも若い女性を狙った犯罪だし、そして現場は空き家だった。同一犯の犯行とも考えられる。
 それらのことを夫に話すと、あの竜崎が一顧だにしないばかりか、参考にするといって捜査本部に持ち帰っていったのだった。.
(新潮社刊)

大修館書店編集部編『品格語辞典』

改まった場面で遣う言葉

 品格語とは、「ふだんづかいの言葉に対し、改まった場面で使える言葉」とのこと。
 いつの時代でも年配の者は特にそう感じるのだろうが、それは世の中の変化に追いついていないだけのこと。
 それにしても、この頃の若い人たちの言葉遣いは乱れていて品がないとは感じる。
 本書は、辞典制作で定評のある大修館の発行。見出し語に対し品格語の用例が解説されており、大変丁寧な編集。
 いくつか拾ってみよう。
 びびる→怖じ気づく、たじろぐ、怯む、臆する
 はまる→凝る、のめり込む、
 ばらす→暴く、さらけ出す、暴露
 テンパる→慌てふためく、途惑う、狼狽
 どや顔→得意顔、したり顔
 なので→従って、そこで、そのため、だから、故に、よって
 それにしても、トイレ→お手洗い、化粧室、ご不浄などへ言い換えて品格が上がるものかどうか。せいぜい女言葉にしているだけではないのか。もっとも、この頃は男女の差別は厳に戒めなければならないようだが、言葉遣いで男女の使い方がなくなっては殺伐とするように思うが。うまい→おいしいと男に遣われると丁寧語の乱用に思える。
 全般に、本書は企画の趣旨はよかったが、ほぼ従来の類語辞典に近く、品格語辞典というにはいかがなものだったか。関根健一監修。
(大修館書店刊)

映画『ある男

(写真1 映画館で配布されていたチラシから引用)

石川慶監督作品

 冒頭、きれいに額装された絵。美術館かもしれない。絵には、男の後ろ姿。そのすぐ後にも男の後ろ姿が重なっている。姿見を見ているのかもしれない。しかし、それでは理屈に合わない。さらに、その絵を見る男の後ろ姿。三人とも明らかに同じ男だ。どういう意味があるのか。この絵のことはその後登場することはなく忘れていた。
 文具店で働く里枝。離婚して息子と二人暮らし。毎日のように画材を買いに来る男大祐。やがて付き合うようになり結婚する。こどもももうける。
 大祐は、ボクシングジムに通うと、めきめきと才能を伸ばし、新人王戦の挑戦者となるが、大祐は突然そこでジムから遠ざかる。どうも、新人王となって脚光を浴びることを敬遠したようだった。とにかく口数の少ない男。 働いていた伐採の仕事で、切ったばかりの木の下敷きになるという不慮の事故で命を落としてしまう。
 伊香保に住んでいるという兄に連絡すると、弔問に訪れた兄は遺影を見て「これは大祐ではない」と断じる。
 里枝は弁護士の城戸に大祐の身元調査を依頼する。奇妙な依頼だったが、城戸は大祐をともあれXと仮定し身元を捜す。しかし、身元を隠して生きてきた男の生い立ちを調べるのは容易ではない。
 夫大祐として生きてきた「ある男は」一体誰だったのか。愛したはずの男は名前すらわからなかったのだ。
 調査を進めるうちにXの実像がわかってくる。しかし、その男は別人として生きてきたのか。
 人間の実存すら問われることとなっていく。弁護士の城戸にも隠しておきたい過去があったのだったが、それすらもあぶり出されていく。
 「本当の姿を知る必要があるのか」という里枝の言葉が重い。
 ラストシーンで、冒頭に出ていた絵を見る男の姿が映し出され、やっとその意味にたどり着けた.。ミステリアスであり、人間の存在に迫ってなかなか面白い映画だった。

 なお、原作は平野啓一郎の同名小説。

大沢在昌『黒石(ヘイシ)』

新宿鮫XII

 新宿署生活安全課鮫島刑事が主人公のシリーズ。12巻目。第1巻が1990年だったからはや30年を超すロングラン。ただ、新宿を舞台にしながら毎回凝ったストーリーが創りだされて新鮮さが続いている。キャリア警察官ながら内部の抗争により一介の所轄署警部に飛ばされながら一匹狼として活躍する爽快感が持ち味。何事にも妥協しない強さからやくざからも〝新宿鮫〟としておそれられている。
 さて、本作は、複雑な正体不明の事件。
 茨城、千葉、埼玉で死亡事件が発生していた。ただ、各県警はそれぞれに事件性は認めず、交通事故などと判断して処理していた。
 ただ、中国残留三世の動きを捜査していた新宿署生活安全課の鮫島警部や阿坂課長、矢崎刑事に鑑識の藪らは、手口に不審なものを認め、関連を疑っていた。金石(ジンシ)という組織が浮上し、そのリーダー格に八石という存在が浮かんできた。
 そんな折、高川という男から、金石から自分の身を守って欲しいという矢崎を通じて接触を受ける。高川はもともと金石のメンバーだった。
 八石は、元来がネットワーク型の組織で、AとBは知り合いだが、AとCは面識もないというつながり。指令を出しているのは徐福という存在。それもインターネットで繋がっているだけで、徐福がどこに住んでいるかも知れない。大連という情報もある。
 高川が言うには、徐福がこの頃になって組織を緩いネットワーク型からピラミッド型に変えようとしていて、邪魔な存在を駆除しているとのこと。
 実行役に浮上してきたのがヒーローと自称する男。黒石(ヘイシ)と呼ばれ、テロリストである。徹底して自分の存在を世の中から薄め、慎重に行動する。ターゲットの駆除方法は鉄亜鈴のようなもので頭を叩き潰すという残酷なもの。しかし、凶器の特定はできていない。
 とにかく正体不明の複雑に絡み合った事件。徐福とは何物なのか、黒石とはどんな男か。
 鮫島の執拗な追求が行われる。何物もないがしろにしない鮫島の捜査である。矢崎はそもそも公安から入り込んできた刑事なのだが、次第に鮫島のシンパとなっていく。
 ラスト、徐福と黒石の関係には想像がついた。しかし、そこには二人の悲しい物語が絡み合っていた。それは中国残留孤児帰国二世三世の母国はどこかという難しい問いかけだた。
(光文社刊)