ABABA’s ノート

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ジェフリー・アーチャー『剣より強し』

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クリフトン年代記第5部
 波瀾万丈に展開されてきたクリフトン年代記。1919年ハリー・クリフトンの誕生前夜から始まった物語は、ほぼ1年に1部ずつのペースで刊行されてきて、第5部では1964年まで進んできた。
 ベストセラー連発の人気作家となったハリー。その妻エマは今や押しも押されもしないバリントン海運会長。エマの兄でハリーの親友でもあるジャイルズ・バリントンはブリストル選出の庶民院議員。労働党所属。ハリーとエマの息子セバスティアンの成長は著しく銀行家への道を順調に進んでいる。

 こうした物語の核となる常連の主役に対する、準主役というべきジャイルズの元妻ヴァージニアやハリーの同窓生であるフィッシャー少佐らの執拗な攻撃が引き続き物語の一つの柱。大半が法廷劇だが、いかにもイギリスの小説らしい醍醐味ある法廷劇が繰り広げられている。
 そして今回新たに加わったのは、ソ連の反体制作家ババコフの作品の出版に活躍するハリーの物語。その作家はスターリンの元通訳だったという設定で、発禁本であり幻の作品となっていた。ここで明らかにされたのは、ハリーの卓越した能力。つまり、ハリーには記憶力に際立った能力があり、文章を行単位ではなくページ単位で読解し記憶することができたのだった。
 そして物語に新しい息吹を与えているのがセバスティアン。法廷劇では母のエマを助ける活躍で、バリントン海運の将来を担っていくものと予感させる。
 また、セバスティアンがとった行動を許せない婚約者サマンサとの齟齬は新たな物語の展開となっていくようで、この行く末が気になるところ。
 当初、4部作あるいは5部作といわれながらますます充実してきたクリフトン年代記は、7部あるいは8部までも用意されているらしいが、70なかばを超してなお好調なアーチャーのストーリーテラーぶりには驚かされる。
(新潮文庫上・下)

 なお、余談だが、アメリカで大統領選挙があるたびに思い出されるのは『ロフノスキー家の娘』。今年はとくに女性初の大統領誕生も予想されるところとなってなおさら感興が深い。アーチャーの傑作であり、私が最も好きなアーチャー作品である。