車掌車へのほとばしる愛情
車掌車の全容が概説されている。いやあ、それにしても素晴らしい。車掌車に関してこれほどまとまった本の刊行はわが国では初めてではないか。それも、オールカラーの写真がふんだんに載っているムックだから読み進むに楽しい。車掌車好きとしてはバイブルみたいな内容だ。
巻頭を飾っているのは車掌車の歴史と役割。それによると、合理化目的で貨物列車への連結が原則廃止された1985年を境に、1979年に3510両が在籍していた車掌車は、国鉄分割民営化の際にJR各社に引き継がれたのはわずかに336両で、さらに近年では20両まで減っているという。
この希少性の高い車掌車の実情を全国に訪ね歩いてまとめたのが本論。ヨ3500形とかヨ5000形、ヨ8000形などと車掌車の全形式ごとに紹介するとともに、それぞれの保存車を探し求めている。その範囲は私鉄の車掌車にも及んでいる。
また、車掌車の転用ということでは、駅舎などで使われている実態の把握が行われているほか、個人らが購入した例も追求されている念の入りようである。
ほかにも台湾やアメリカといった外国における車掌車についてもルポを行っていて、とにかく大変な労作である。
膨大な時間とエネルギーを注ぎ込んだものと思われるが、著者は1971年生まれというからまだ40代半ば。医師であり作家でもあるようだが、何よりもその車掌車へのほとばしる愛情が感じられて好ましかった。
巻末には、車掌車&緩急車保存車リスト(2016年)が載っていて、そこには120両についてその形式、製造番号、保管場所が網羅されていて資料性が高い。
私も車掌車好き。本書を片手に早速にでも「車掌車を訪ねる旅」に出たくなったものだった。
なお、希望を付け加えれば、簡単なものでいいから用語解説が欲しかったように思われた。
(イカロス出版刊)