ABABA’s ノート

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近藤健児/久保健『クラシック偽作・疑作大全』

名曲は名曲だが

 偽作とは、真の作曲者が別人と判明している作品のこと。疑作とは、真の作曲者が他人かもしれないと疑われている作品のこと。
 18世紀までは売らんがために勝手に有名作曲家の名前をつけて別人の楽譜を出版するなど、ずさんなことが平気でなされていたため、大作曲家の作品目録のなかには相当数の偽作や疑作が紛れ込むこととなったという。
 偽作・疑作とされた作品のその後はさまざまで、ハイドン作とされていた「セレナード」やモーツアルト作「子守歌」のように、他人作とわかった途端に演奏も録音も激減した曲がある一方で、バッハ(大バッハ)作とされていた「フルート・ソナタ」のように、これまでと変わらずよく演奏されている曲もあるという。
 本書は、偽作、疑作に関する論考で、わが国では数少ない偽作・疑作に関する探求者である。
 バロックの時代、とりわけバッハについては時代も遡るだけに随分と偽作・疑作も少なくないらしい。
 これがベートーヴェンにおいては、偽作の入り込む余地はなくなったとしている。ベートーヴェンは自らの作品に作品番号付与するようになっておりなおさらだ。
 それにしても驚かされる。
 「アヴェ・マリア」を作曲したカッチーニは、実は架空の人物らしい。叙情性もあって名曲だと思ってこれまで聞いてきたが。もっとも、こちらは研究者でもなし、いい曲だと思って聴いているだけのこと。それで、作品の価値は下がるわけでもなし、