ABABA’s ノート

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ベートーヴェン全曲鑑賞

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(写真1 ボックスセットの内容。奥がボックス)

CD80枚を聴き通す

 ベートーヴェンが作曲した楽曲すべてを集めたTHE COMPLETE WORKS(作品全集)。CD80枚のボックスセットになっていて、レーベルはワーナークラシックス。
 これを毎日1枚ずつ聴いてきて、このたびやっと完結した。朝食後、コーヒーを淹れて、書斎にこもり、まずはCDをかける。これがここのところの日課だった。同じ日に2枚かけることはしなかった。CD1枚の演奏時間は約60分。この時間が至福だった。もちろん、この間には、旅行もあったし、外出などもあって、結局、80枚を聴き通すには約100日を要した。
 ボックスセットの内容は、作曲した年代順ではなくて、カテゴリー別になっている。
 初めに9曲のシンフォニーが5枚のCDに収められている。演奏はCDE(ヨーロッパ室内管弦楽団)で、指揮はニコラウス・アーノンクール。CDEはロンドンに拠点を持つ比較的新しいオーケストラで、アーノンクールはオーストリアの貴族の出身。9曲のシンフォニーはすべてこの演奏者による。すべて同一の演奏者によるというところが素晴らしい。1990年-91年の録音。つまり、寄せ集めではないということ。
 続いてピアノコンチェルト。ピアノ演奏はアンドラーシュ・シフ。ハンガリー出身のピアニストで、夫人はヴァイオリニストの塩川悠子。指揮者でもあり、弾き振りもおこなう。オーケストラはシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立管弦楽団)。
 べートーヴェンにピアノコンチェルトは第1番から第5番までの5曲かと思っていたが、ほかにナンバリングされていない曲が2曲あった。このあたりがCOMPLETE WORKSの貴重なところ。
 ピアノ・ヴァイオリン・チェロの三重奏曲、ヴァイオリンコンチェルト、序曲などと続く。
 次がピアノソナタ。全32曲がスティーヴン・コヴァセヴィチの演奏。コヴァセヴィチはイギリスのピアニスト。ここでも、全32曲が同一演奏家によるところが素晴らしい。
 ピアノソナタは、CD17からCD25に収められており、ベートーヴェンの最も得意とする分野であり、1番から32番まで続けて聴いていると、いずれの曲も完成度が高く名曲揃いであることがわかる。なお、ナンバーが打たれていないものが4曲含まれている。
 ピアノバガテル(小品)というカテゴリーには17曲が収録されているほか、ピアノヴァリエーションという項目には、25もの作品が4枚のCDに収録されている。
 このあたりの作品には、Op.(オーパス=作品番号)の付されていないものが多く、代わりにWoO(ヴェーオーオー)という記号が付けられているものを見かける。WoOはドイツ語で〝作品番号なしの作品〟の略語で、作品番号がつけられていない楽曲の整理のためにつけられる認識番号を示しているとのこと。
 続いて、その他のピアノ曲、その他のキーボード曲というくくりの作品が収められている。
 ピアノソナタには、そもそもヴァイオリンソナタとして作曲したものをピアノソナタに模様替えしたものまである。
 また、この先は様々なデュオが登場してきている。フルート二重奏曲、フルート・ピアノ、クラリネット・バスーン、ホルン・ピアノ、マンドリン・ハープシコードとあり、ヴァイオリン・ピアノのデュオにはヴァイオリンソナタが1番から10番まで入っている。ヴィオラ・チェロ、ヴィオラ・ピアノ、チェロ・ピアノなどと続いている。
 このあたり、ヴェートーベンは、ピアノはもちろん様々な楽器を研究していたことが知られるような作品構成だ。特にピアノについては、ピアノメーカーに様々な要望を出し、その結果、今日のようなピアノが誕生したとのことである。
 ヴェートーヴェン自身がピアニストだったからであろうが、それにしてもピアノ曲が多い。ピアノトリオも13曲もある。演奏は、ピンカス・ズーカーマンのヴァイオリン、ジャクリーヌ・デュ・プレのチェロにピアノはダニエル・バレンボイム。彼はピアノソナタ全32曲を5回も録音したという記録の持ち主。
 ピアノトリオの次には弦楽三重奏曲、弦楽四重奏曲と続く。演奏はアルテミス四重奏団。16曲も続く。
 ベートーヴェンの楽曲全曲を聴いて感じたこと。一つにはとにかくレパートリーが広いとうこと。ベートヴェントいうと<英雄>や<運命>のような重厚な曲が印象深いが、<エリーゼのために>のようなやさしい曲もあって、ピアノソナタやピアノの小品に名曲が多いのも魅力。いろいろな形容詞があるのだろうが、やはり〝楽聖〟と呼ぶにふさわしい。
 私は格別の好事家というわけでもないし、音楽に造詣があるわけでも、すぐれた耳を持っているわけでもないが、好きで毎日聴いているくらいだから決して嫌いではないだろう。
 ボックスセットに入っていた解説書のインデックスを丹念に数えてみたら、総数357曲(あるいは数え方で407曲)にもなった。この中には、〝第九〟のように66分を超すような長い曲もあれば、バガレットには1分に満たない曲もあって実に様々。なお、ウィキペディアによれば、Op.とWoO.がついているものは343曲となっている。
 このボックスセットは、演奏家が一流ばかりだし、録音もいいようだ。レーベルはワーナーで、2019年の上梓。
 しばらくベートーヴェンが耳から離れないのではないか。まあ、心配するほどのことでもないが。