ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

自転車で船でバスで来島海峡

日本海峡紀行

(写真1 来島海峡大橋から眼下に見た来島海峡。潮流の様子もわかる)

3度も渡って楽しめる海峡

 このたびの海峡巡りでは、来島海峡は3度渡った。つまりどういうことかというと、海峡は船で渡りたいものだが、初めは自転車で渡り、次に船で渡り、3度目はしまなみ海道を走る高速バスで渡ったのである。
 来島海峡とは、愛媛県今治市とその沖の大島との間の海峡で、瀬戸内海の中央やや西寄りに位置し、東から燧灘(ひうちなだ)と斎灘(いつきなだ)とを結ぶ。
 地図で見ると、瀬戸内海を東から西へ、あるいは西から東へ進もうとすると、どうしても来島海峡を抜けなくてはならない。脇道はいくつかあるのだろうが、幹線ということではこの海峡ということになるようだ。海峡内は、さらに東・中・西と三つの狭水道に分かれるようで、大型船は中水道・西水道を通航するというルールがある。海峡幅は東水道800メートル、中水道430メートル、西水道870メートルとなっており、いずれもとても狭い。
 しかも、潮流の速いことでも知られ、鳴門海峡、関門海峡とともに日本三大急潮流に数えられるということで、最大潮流は9ノットを超すといわれる。また、海峡は屈曲しており、海の難所である。1日に1500隻もの船舶の航行があるといい、海難事故も多くて、1994年からの10年間で20件もの事故があったということである。
 来島海峡には、来島海峡大橋が架かっている。今治側から第三来島海峡大橋、第二来島海峡大橋、第一来島海峡大橋と三つの長大吊り橋が連なっており、3連箱桁形式吊橋という世界的にも珍しい形式の大橋で、この三つの吊り橋の総称が来島海峡大橋というわけ。そして、三つの橋の総延長が4105メートルあり、言わば、約4000メートルが海峡幅に相当するということになろう。
 さて、いよいよ海峡を渡ってみよう。三つの渡り方があるというのも楽しみ。

 まずは自転車で。来島海峡大橋には歩行者・自転車用通路が併設されており、渡れるようになっている。大変粋な計らいだ。

(写真2 予讃線波止浜駅)

 起点はサンライズ糸山というレジャー施設内にある中央レンタサイクルターミナル。JR予讃線の波止浜駅からタクシーで5分ほど。ここで電動アシスト自転車を借りた。一般の自転車と異なってこれなら多少の登り坂も乗り切れると案内された。

(写真3 来島海峡大橋のたもとには今治造船のクレーンが林立している)

 出発するとすぐに本線への取り付け道路だから急な登り坂。それでも、電動アシスト自転車だから難なく登っていく。途中、眼下に今治の造船所に林立する巨大なクレーン群が見えた。今治造船は今や世界トップクラスの竣工量を誇る造船所ではないか。

(写真4 来島海峡大橋の歩行者・自転車道。右が自動車道。主塔の高さは圧倒的だ)

 架橋部分に入ると、まっすぐに歩行者・自転車道が延びていく。自動車が猛スピードで追い抜いていく。とても見晴らしがいい。素晴らしい景色だ。島々が連なっている。海は内海だからなぎになっているが、ところどころで大きな潮流も見られる。瀬戸内海の美しさが実感できる。来島海峡が眼下に広がっている。様々な船が航行している。コンテナ船、タンカー、大型客船もやって来た。やはり、船舶通行量の多い重要な海峡だということが理解できる。
 時折、サイクリング中の自転車とすれ違う。追い抜いていくものもいる。若者が多いが、夫婦という姿もいる。すれ違う際にはお互いに挨拶を交わす。歩いている人もいて、どこから来たのか尋ねると、今治と大島の間を往復するのだという。今治に住んでいるが、この大橋を渡るのは初めてだとのこと。

(写真5 来島海峡大橋全景。三つの長大吊り橋に6本の主塔。ただし、アンカーは2本の主塔で一つ)

 美しい橋が三つも連なって、こんな素晴らしいサイクリングもないものだ。風が頬に心地よい。まるで天空の旅だ。

(写真6 橋上から見た海峡。船が航跡を引いて走り、灯台が白い姿を見せる。背景に山並み。まるで一幅の絵画だ)

 三つの橋を渡り終えて引き返した。この先、しまなみ海道は尾道まで続いている。総延長にすると、60キロほどあるようだ。健脚なら2時間もかからずに渡りきれるのではないか。
 糸山サイクルセンターで自転車を返却したら、貸し出しから1時間20分だった。汗だくだったが、ちょうどいい運動になった。

 次は船で。海峡はやはり船で渡りたいもの。来島海峡を渡る船は、5本ほど出ているのだが、時間の都合のいい芸予汽船の快速船を選んだ。

(写真7 今治桟橋を出港。第一から第三まで三つの桟橋がある。背景はフェリーターミナル)

 今治桟橋発。桟橋には今治駅から徒歩15分ほど。バスが頻繁に出ている。桟橋のターミナルが新しく立派になっていた。今治桟橋は第一桟橋から第三桟橋まで三つもある大きなもので、芸予諸島を初め各方面へ多くの船が出ている。さすがは今治だ。
 第一桟橋から17時20分発因島土庄港行き。芸予諸島を大島、伯方島、岩城島、佐島、生名島などと巡る。因島とは随分と遠くまで行くものだが、土庄港は大きな因島で最南端の港。
 来島海峡を渡るというだけの目的のためだったので、私は最初の寄港地大島の友浦港との間を往復したにとどめた。

(写真8 今治港の防波堤灯台)

 出港すると、ユニークな防波堤灯台が見えた。防波堤灯台にしては大型で、とんがり屋根のペンシル型の白く美しい灯台だ。

(写真9 海峡をまたぐ来島海峡大橋)

 やがて来島海峡大橋が左手に見えたきた。このあたりが来島海峡の中心であろうか。流れの速い海峡だが、快速船で横切っているからその影響は素人の乗客にはまったく感じられない。

(写真10 大島友浦港)

 そのまま船は大島と並行するように北上しやがて友浦港に寄った。港には大きな水産会社があり、そこそこの集落のようだった。
 私はここで下船し30分だけ滞在し今治港行きの船で引き返した。やはり快速船で、今治港では多くの乗客が下りた。

 

(写真11 入港してきた今治行きの快速船第一ちどり)

 乗ってきた船は第一ちどりという汽船で、49トンと船内に表示があった。三保造船の建造とある。

(写真12 来島長瀬ノ鼻潮流信号所の電光板式潮流信号。ちょっと見づらいがSと表示がある)

 帰途、海峡にさしかかった頃、大島の中腹に来島長瀬ノ鼻潮流信号所の電光が見えた。電光板式潮流信号というのだそうで、Sは南流、4は流速を示しているとのこと。

(写真13 来島海峡を照らす夕陽)

 今治港が近づいた頃、来島海峡が夕陽に染まり、もやってはいたが幻想的な風景だった。

 それにしても来島海峡には灯台が多い。これは海峡内に小島が数多くあるからで、ざっと数えただけで来島、小島、馬島、中渡島、武志島と五つもの小島が狭い海峡内に浮かんでいる。速い潮流に加え、このことが海峡の通過を難しくしているのだろう。(この項 5月25日)

(写真14 JR今治駅)

   三つ目はバスで。今治からは尾道までしまなみ海道を高速バスを利用した。今治駅前7時15分発福山行き。出発して初めの区間が来島海峡大橋を渡る。すでに、自転車と船で渡ったし、高速バスだからあっという間に過ぎ去って眼下に見えた海峡もいささか印象が弱い。

 ただ、このバスは大島、伯方島、大三島、生口島、因島などと渡っていくし、それこそしまなみを連ねていくのでとても楽しい。車窓にとても変化があるし、因島までなら所要時間は50分にすぎない。
 島と島は橋で渡るのだが、多くは吊り橋。長大橋に最適な構造だからだが、ほかに、大三島橋がアーチ橋、多々羅大橋と生口島橋が斜張橋で、様々な構造の橋が連続してみられるというのもしまなみ海道の楽しみか。

 

(写真15 バスから見えた灯台。遠くから見ると四つの灯台が並んでいるように見えて面白い)

 このバスは福山行きであり、私は尾道に向かうので因島で高速バスから路線バスに乗り継いだ。
 一つの海峡を三つの方法で渡る。滅多にないことだが、とても楽しい。海峡好きには至福の時だ。(この項 5月26日)

 海峡の町今治。航路が鉄道よりも栄えている町というのも全国で珍しいのではないか。鉄道連絡船で発達した函館や青森、高松などとも異なって独特の風情がある。今治は、タオルと造船の町といわれるが、海峡の町でもある。そのことは今治の人たち自身も認識しているようで、今治駅前の歓迎塔にも〝海峡の町〟と謳ってあった。私にしてみれば、大変頼もしい。

(写真16 今治城の美しい姿=2016.2.26)

 また、今治は城下町でもあって、今治城が美しい姿を見せている。藤堂高虎が築城したという。海水を掘りに引いているというのも今治らしいか。そう言えば、村上水軍が海戦で信長軍を破った歴史がある。根っからの海峡の町なのである。