ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

不思議のクダコ水道

日本海峡紀行

 

(写真1 クダコ水道の中央に位置するクダコ島。頂上にはクダコ島灯台)

海軍と水軍の航路

 瀬戸内海西部地域の海峡巡りを計画していたところ、クダコ水道なる地名を見つけた。地元ではつとに知られた名前なのだろうが、私には浅学にして知らなかった。
 調べてみたところ、中島と怒和島との間にあり、釣島海峡とつながって安芸灘と伊予灘を結ぶとある。釣島海峡は前日に渡ったばかり。
 かつて、連合艦隊の艦船は呉からこの水道を抜け釣島海峡を経て伊予灘から外洋に出たということである。
 海峡幅は東西にわずか1海里強に過ぎないものの、水深が154メートルと深いところから連合艦隊などには好まれたものであろう。それで今日に至っても重要航路となっているものであろうし、また、潮流が速く、平均流速は4.6~6.5ノットにも達するという。
 水道上にはクダコ島があるようだし、しかも灯台もあるようだから、無人島で上陸はできないようだが、できるだけ接近してみよう。
 釣島には松山の三津浜港からフェリーが出ていたが、クダコ水道を渡りクダコ島に接近するには松山の高浜港から出る中島汽船の西線が最もクダコ島に近いルートを通るようだと見当をつけた。

(写真2 高浜港に接岸した中島汽船の高速船いそかぜ)

 7時40分発。フェリーではなく高速船である。高浜港のターミナルで乗船券を求めたところ、乗船券のほかに急行券も渡された。急行券分が加算される。三津浜港と高浜港とは近所。
 乗ってすぐに、クダコ島付近は通るかと乗員に尋ねたところ、怒和島の上怒和港に入る少し手前でクダコ島は左手に見えるとのこと。私の見当はあたっていたのである。

(写真3 途中、寄港はしなかったが、釣島灯台の脇を抜けた)

 興居島を過ぎると釣島。前日に釣島に渡った際には航路の方角が違って見えなかった釣島灯台がはっきりと丘の上に見えている。

(写真4 遠くクダコ島がかすんで見えた)

 やがて、高浜港から30分ほどで中島。周辺では最も大きな島で、南端の神浦港にまずは寄って、次に怒和島の上怒和港に向かった。
 するとやがてクダコ島が見えてきた。乗員の教えてくれた通りである。釜をひっくり返したようなまん丸い島だ。

(写真5 島の頂上に建つクダコ島灯台。どうやらLED灯器のようだ)

 灯台がくっきりと見えてきた。島の頂上に建っている。島は海面から屹立したようになっていて、砂浜もないし、それこそとりつくしまもない。孤島の無人島である。
 島は、周囲1.8キロ。まったく平地は見当たらない。クダコ水道の真ん中に位置し、水道を東西二つに分けている。海峡幅は東西どちらも0.6海里と狭い。

(写真6 クダコ水道を走る高速船の航跡。背景はクダコ島)

 それにしてもクダコとはどういう意味か。船上からは確認できなかったが、頂上には城郭が築かれていたという。南北朝時代に築かれたといい、絶壁が自然の城壁になっていたもののようだ。
 下って、村上水軍の要塞となったようで、この時代には久田子衆や九多児衆と呼ばれていたようで、それがクダコとなったものであろう。
 灯台は、白色塔形で、灯台表によれば、灯台の高さは10メートルとある。また、別の資料には灯火標高は57メートルとあるから、島自体の高さは標高がおよそ47メートルとなる。明治36年の初点灯で、なかなか古い。海軍が設置を促したものかも知れないが、いずれにしてもやはり重要航路だったのだろう。

(写真7 寄港した島々では旅客の乗降があった)

 船は上怒和港に寄って、いったん、引き返し怒和島の南端をぐるっと回って元怒和港に入ってから隣の津和地島の津和地港に寄り、帰りは二神島の二神港に寄って再び神浦港を経て高浜港に戻った。
 各島々の寄港地ではそれなりに乗降があり、この高速船が人々の生活を守る足となっていることがわかった。最も乗船者が多かったのは帰途に寄った神浦港だったか。
 結局、6度も港港に寄ったからクダコ水道も3度も渡ることになったが、それでわかったこと。
 クダコ水道は、とても狭い海域を抜けるように海上交通路となった水道だということ。潮流は速いというが、船上から見る限り、海面はねっとりとして穏やか。
 島々を結んで住民たちの交流があったのだろうし、水道がその交通路となってきたのだろうし、海峡を挟んで人々の暮らしがいっそう広くなったものであろうと想像することは難くはなかった。
 私自身は、高浜港で乗船して、どこにも途中下船することなく高浜港に戻ってきたのだが、この間、約2時間。高速船だからやはり速い。これがフェリーなら倍近く要したのではないか。高浜港で西線を一周する乗船券を求めたところ、そのようなチケットは用意されていないとのこと。二神港までを買い、その先は船内で購入してくれということだった。もっともなことだ。
 それにしても船旅はいい。見知らぬところへ運んでくれるという浪漫がある。私は鉄道好きではあるが、船旅もやみつきになりそうだ。(5月25日取材)

<クダコ島灯台メモ>(灯台表、ウィキペディア等から引用)
航路標識番号/4926
位置/北緯33度58分1秒、東経132度34秒8分
名称/クダコ島灯台
所在地/愛媛県松山市(クダコ島)
塗色及び構造/白色、塔形
灯質/等明暗白光 明3秒暗3秒
光度/590カンデラ
光達距離/12海里
塔高/10メートル
灯高/57メートル
初点灯/明治36年4月10日
管轄/第六管区海上保安本部松山海上保安部