ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

鼠ヶ関灯台(山形県鶴岡市)

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(写真1 弁天島の先端に建つ鼠ヶ関灯台)

山形・新潟の県境

 羽越本線で鶴岡から約40分、鼠ヶ関(ねずがせき)駅下車。古くは念珠関と呼ばれたところ。

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(写真2 羽越本線鼠ヶ関駅。駅前に灯台を模したモニュメント)

 駅から海岸に下っていくと右手前方にもう灯台が見えてくる。途中には、義経が奥州に逃れた際の上陸地点という大きな石碑が立っている。

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(写真3 「源義経上陸の地」の碑)

 また、海岸はマリンパークになっていて、右奥が鼠ヶ関漁港。陸続きの島の先端に白い灯台が見える。海上遠くには日本海に浮かぶ粟島も望める。この日は晴天だったから幸いだった。灯台まで駅から普通に歩いて15分、早足で10分。

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(写真4 弁天島と鼠ヶ関灯台。漁港は向こう側)

 島の名は弁天島。かつては陸続きではなかったらしい。島の中央に厳島神社があり、灯台へは回り込むようになっているようだ。初め、南側から攻めたのだが、途中で立ち入り禁止になっていた。かまわず進んだが、足下が良くない。なるほど危険がありそうだ。それで断念して、いったん戻って次に反対側つまり北側から向かうと何のことはない遊歩道が整備されていた。
 坂道を登っていくと、赤い鳥居があり、その先に灯台。鳥居があったので頭を下げると、まるで灯台にお参りしているような錯覚になった。

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(写真5 白色円塔形の灯塔)

 大きくはないがとても姿のいい灯台だ。白い円筒形である。高さは10メートルほどか。コンクリート造だろうが、タイル張りになっている。初点銘板には、初点大正14年4月、改築昭和54年2月とある。なお、この初点銘板に記された灯台名は、鼡ヶ関燈台とあった。そう言えば、鼠ヶ関駅の木製の表札にもこの鼡の字が使われていて、略字が好まれている時代だったのであろうか。

 

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(写真6 灯塔上部。LED灯器か)

 灯台は、両腕を伸ばして測ってみたところ、10尋ある。つまり、自分の身長から勘案すると太さ(円周)は約17メートルということになる。
 灯台女子の中には灯台に抱きつくのを好みにしている人がいるようだが、私は抱きつきはしないが、両腕を伸ばして太さを測るようにしている。灯台には、塔高(地上から塔のてっぺんまでの高さ)、灯火標高(平均海面から灯火までの高さ)と2種類の高さの表記があるが、太さについては表記がない。航路標識としての必要性として太さはあまり要求されないのであろう。ただ、私は太さも知りたいものだと常々考えていて、巻き尺を持参することまではしないが、自分の両腕を伸ばした長さを尋(ひろ)として測っている。外国の灯台の中には、中国で太さを明示しているものを見たことがある。

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(写真7 こちらは〝愛の椅子〟)

 灯台は岩礁の上に建っている。ただ、高い場所に建っているわけではなくて、せいぜい10メートルに満たないのではないか。遠く粟島が見えている。灯台の周りには二つの木製のベンチがあって、一つには座面に〝恋のいす〟、もう一つには〝愛のいす〟とペンキで描かれている。
 日本海側はおおむねそうだが、夕陽の美しいところが多く、ここ鼠ヶ関灯台も夕陽が評判。このベンチに座って夕陽を眺めたらさぞかし仲が深まるのではないかとよけいなことを思ったりしていた。
 新潟港を出て日本海を北上してくると、防波堤灯台はともかくとして、沿岸灯台としてはこの鼠ヶ関灯台から入道埼、艫作崎、小泊岬、龍飛崎と続く。名だたる灯台が並ぶが、鼠ヶ関灯台は初点も若いし、大型灯台ではないし、この周辺海域は海難事故が歴史上少なかったのかも知れない。

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(写真8 灯台の脇にある金比羅宮の社)

 なお、灯台の脇には小さな社と鐘がつってある。社は金比羅さんとあるから、やはり海の神様を祀ったものだ。鐘を鳴らしてみたら、想像以上に大きな音が出てびっくりした。

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(写真9 山形・新潟県境の石柱)

 ところで、この鼠ヶ関灯台があるところは実は山形県と新潟県の県境にほど近い。駅から徒歩5分ほど。線路と並行して住宅が建ち並ぶ通りを進むと、県境を示した石碑が出てくる。左山形縣 右新潟縣境標と記してある。
 県境といえば、峠だったり、川だったりするところが大半。住宅地が連続するところが県境とははなはだ珍しい。ここには県境通過記念のスタンプ台が設けてあった。
 このスタンプ台の脇、わずか幅1メートルほどの路地が県境となっている。なるほど、玄関に記された表札に寄れば、右の家は山形県鶴岡市とあり、左には新潟県村上市とあった。
 この路地を下っていくと海岸の通りに出て、そこにも山形県鶴岡市県南の里鼠ヶ関の看板と、路地を挟んで反対側には新潟県村上市県北の里伊呉野の看板が並んで立っている。
 通りに椅子を出してくつろいでいたおばあさんに、すぐ隣は他県だが不便はないかと尋ねたら、「何も不便はない」とのことだった。また、オートバイで郵便配達中の女性職員に尋ねても、「すぐ隣でも他県の家に配達することはない」とはっきり。
 駐車してあった自動車にしても、山形県側にはナンバープレートが庄内になっていたし、新潟県側の自動車は新潟になっていた。小学校も違うのだろうから、何かと不便そうだがどうだろうか。子ども同士遊ぶときにはどうしているのだろうか。

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(写真10 この2軒の間が左=山形・右=新潟の県境である)      (2021年8月31日訪問)

<鼠ヶ関灯台メモ>(灯台表、ウィキペディア等から引用)
航路標識番号/1363
位置/北緯38度33分5秒 東経139度32分4秒
名称/鼠ヶ関灯台
所在地/山形県鶴岡市鼠ヶ関
塗色・構造/白塔形
レンズ/不明
灯質/群閃白光毎10秒に2閃光
光達距離/12海里
塔高/14メートル
灯火標高/21メートル
初点灯/1925年(大正14年)4月1日、昭和54年2月改築

管轄/第二管区酒田海上保安部