ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

島根県立美術館

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(写真1 宍道湖に向け大きく開口したロビー)

 三拍子揃った魅力

 魅力は三つ。一つ目はもとよりコレクションで、ロケーションが二つ目、三つ目は運営内容。全国の公設美でこの三つが揃ったところも珍しいのではないか。全国の県立美術館の大半を見たことがあるが、ここ島根県美はその素晴らしさから上位にランクされよう。
 まず、ロケーション。宍道湖に面しており眺望が素晴らしい。これが何よりの価値。宍道湖は全国夕日100選に選ばれるほどに夕日がことのほか素晴らしいことで知られるが、この美術館は湖畔の東南岸に位置しているところから、その眺めは絶好となっている。建物そのものも随所にそういう工夫が見られる。設計は菊竹清訓。
 美術館の開館時間は10時00分から18時30分だから夕方ゆっくり鑑賞できる。この頃は金曜日などは開館時間を延長しているところも増えてきたが、常時18時30分というのは珍しい。しかも3月から9月の期間は日没30分後まで開館時間を延長しており、夕日をたっぷり楽しむことができる粋な計らいとなっている。ただ、訪れた日は生憎と曇りで夕日は望めなかった。

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(写真2 石橋和訓「美人詩読」=美術館で配布されていた鑑賞シートから引用)
 さて、肝心のコレクション。私はこの美術館は三度目だが、いつでも目当ては石橋和訓の「美人詩読」(1906年)。私はこれほど美しい絵をほかに知らない。モデルはイギリス人らしいが、貴婦人の典雅さに目を奪われる。石橋は島根県出身、イギリスで肖像画を学んだという。
 ところで、この美術館では展示室の入口に、展示作品を解説したB6判ほどのシートが置いてあり、自由に持ち帰られるようになっており、とても鑑賞の手助けとなっている。
 このシートで、妻の実家の郷里が松江だったと解説してあったのが松本竣介の「鉄橋付近」(1943年)という作品。戦時中は松江に妻子を疎開させていたとのこと。松本は盛岡中学(現盛岡一高)の時に聴力を失い画家の道を志したが、この作品のモチーフは繰り返し描かれており、静謐さの中に孤独感といった画家の心象風景が描き込まれているように思われる。
 ほかにも岸田劉生の「自画像」(1914年)などとあって至福の時が過ごせる魅力的な美術館なのだった。

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(写真3 松本竣介「鉄橋付近」=美術館で配布されていた鑑賞シートから引用)