ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

緊急事態宣言下の旅

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(写真1 必須アイテム3冊=左から理科年表、時刻表、地図帳)

カントの趣

 緊急事態宣言が出され、外出にも強い自粛要請。旅行はおろか、映画館も、図書館も、本屋までもが休みとあって実際出かける先もないから家でゴロゴロしているが、これではいかにもつまらない。
 これで考え出したのが机上の旅。用意するものは3冊の本。時刻表と地図帳に理科年表、これが必須アイテム。旅行は計画を練る段階が楽しいからこの机上の旅も面白いに違いない。
 まず行き先。地図帳を開いてあれこれと思いを巡らす。風光明媚なところがいい、温泉もいい、汽車旅だから車窓のいいところや初めてのところも選びたい。旅は、日常からの脱出でもあるから大きな変化もほしい。
 北海道はどうだろうか。まだ寒いだろうか。岩手や青森はまだ桜は咲いていないだろうか。
 かつては良かった。夜行列車があったから、大きな変化が得られた。北斗星号で前夜上野を発つと、明け方には海峡を渡っていた。北の大地はまだ雪に覆われている。そのまま北上を続け、札幌で乗り継ぎ、稚内をめざす。翌日には宗谷岬に立っている。何と詩的なことか。しかし、今や夜行の寝台列車は軒並み廃止され、残っているのは、瀬戸と出雲に向かうサンライズ号だけとなった。
 そうだ、出雲へ行ってみよう。米子で境線に乗り継ぎ地蔵崎をめざすのもいいし、松江で降りて城下町を散策するのも楽しい。あるいは終点出雲市まで乗り通し、出雲大社にお参りするのも一興だ。
 出雲は肌寒いだろうか。理科年表によれば、松江の4月の平年気温は12.5度とあり、東京の14.1度に比べればやや低い。降水量は124.0ミリとあって、125.0ミリの東京と変わらない。天気日数というので見ると、松江の4月は快晴3日、曇12日、不照5日とあって、総じて曇の日が多くやや肌寒いようだ。
 さて、寝台特急サンライズ号は、出雲号と高松へ向かう瀬戸号が岡山まで併結されていく。
 サンライズ出雲。東京22時00分の発車。9番線から。14両編成。A寝台、B寝台と2種のグレードがあるが、すべて個室である。ほかにシャワー室やラウンジが連結されている。
 帰宅を急ぐ人々をホームに残し、列車は滑るように動き出す。センチメンタルになる瞬間だ。旅への期待も膨らんで興奮している。買い込んだビールをぐいっと飲んで行き先へ思いを巡らす。
 列車は、東京を出ると横浜、熱海、沼津、富士、静岡と続き、浜松からは姫路まで停まらない。姫路あたりでごそごそと起き出し、岡山6時27分着。ホームに降りて弁当と新聞を買い込む。
 そう言えば、いつだったかこの列車に乗った折、朝目覚めて外を見ると、何か様子がおかしい。そろそろ姫路というのに、外には近江牛の看板が出ている。そうこうして車内アナウンスが始まり、前夜、浜松付近で強風の影響で列車はしばらく立ち往生をしていたとのことだ。何も知らずに寝ていたが、こんなこともあった。
  岡山6時34分の発車。ここで高松行きと別れているが、瀬戸号ならば朝日の中を瀬戸大橋を渡っていてこれはこれで忘れ得ない独特の風情がある。
 岡山を出ると倉敷からは伯備線に入る。備中高梁、新見と続き米子9時03分、どこで降りるか迷うところだがそのまま乗っていて松江も飛ばし、結局、終点出雲市9時58分の到着。
 ここからは一畑電車に乗るのもいい。JRの出雲市駅に隠れるようにしてある電鉄出雲市駅からまずは大社線で出雲大社前駅をめざす。風情のある歴史的建造物の駅が迎えてくれる。出雲大社は徒歩10数分だ。本場出雲そばを食べ、帰りは北松江線で宍道湖のほとりをぐるっと回り松江しんじ湖駅へ。ここからは市内循環バスが頻繁に出ている。宍道湖に沈む夕日が見所だが、穴場は湖畔にある島根県立美術館だろう。この美術館は、何と夕日を観賞できるように閉館時間を遅らせているのだ。
 こうして旅すると、これはもう、生涯、生まれ故郷を一歩も出なかったという、カントのごとき趣ではないか。