ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

橋本正三『駅舎国鉄時代1980's』

2062の駅舎写真

 1980年代の国鉄駅舎が紹介されている。併せて私鉄の駅も一部挿入されている。
 JRは旅客の利便性向上などを目的に積極的に設備投資を行い駅舎の新築改築を行ってきたから、今となっては国鉄時代の駅舎は貴重なほど。
 それにしても、これほどの駅舎の写真を集めるというのは並大抵のことではない。私も鉄道好きだから随分とたくさんの路線に乗ったが、自分の場合は乗って楽しむ流儀。だから、起終点や乗換駅、ダイヤ上の乗り継ぎ駅などでは下車して駅舎の撮影もしたが、多くは通過してしまう駅が大半。
 しかるに、著者は駅舎写真を集めることが趣味だったようだから、これには気の遠くなるような努力が必要だったろう。もっとも、世の中には〝全駅下車〟などという猛者もいるが。1日に2往復しかないような路線では、途中下車してしまったら、次はどうするかと考えると、頭を抱えてしまう。
 懐かしい写真が少なくないが、特に心を痛めたのは東日本大震災で流出してしまった駅舎の写真。面影に心が震える。決して還ってこない駅舎であって、三陸鉄道島越駅など、メルヘンチックな駅舎には思わず呆然とした。新築してくれた駅舎も初代同様ドームをのせて十分に個性的で立派な駅舎ではあるが。
 ただ、惜しむらくは、掲載されている写真はあくまでも駅舎という物理的な建物であって、多くの写真はそこに生活が実感されなかったことだ。駅舎という箱を対象としたことから難しいことだったとは思うが、何か一工夫が欲しかった。もっとも、著者20歳頃の写真だから、そこまで気が回らなかったのかも知れない。
 しかし、中には、石巻線の女川駅の写真は、列車が着いたばかりだったのか、大勢の旅客でにぎわっている駅前が写し出されていて、往時が偲ばれた。私も何度か下りたことがあって、震災で流出してしまったが、かつて、駅前には屋台が並び、大変にぎわっていたものだった。
 ところでちょっと気になったこと。つまり、本書まえがきと著者紹介に書かれていること。
 著者は1959年生まれというから現在63歳くらいか。早くから鉄道趣味に目覚めたようで、1983年私鉄完乗、1984年国鉄完乗とあるものの、国鉄がJRとなった1987年あたりから汽車旅がつまらなくなってきて、昭和の終焉(1989年)とともに鉄道趣味から足を洗ったとある。つまり30歳という異例の若さで引退である。
 しかし、鉄道趣味とはそんなものなのだろうか。鉄道は何歳になっても楽しいのではないか。廃線も多いが、新線の開業も少なくない。新しい発見もあるのではないか。私も鉄道を趣味としていて、JR私鉄はもとより全鉄道を全二周したほどだが、まだまだ鉄道には乗っていたい、見知らぬ駅に降り立ってみたいという願望は薄れてはいない。
 著者はまだまだ若い。私より一回りも若い。新しい視点で再び鉄道の旅に出られてはいかがですか。JR全駅駅舎撮影などというのもいいかもしれない。ハードルは相当高そうだが。また、著者は海外旅行が好きなそうだから、全世界鉄道乗車というのも面白いかも知れない。全世界の鉄道営業キロは90万キロ程度らしいから、挑戦しがいはある。
(イカロス出版刊)