火星とは何か科学的考察
〝地球の歩き方〟は、旅行ガイドブックの大シリーズで、私も外国旅行にはよく携えていったから随分と重宝させてもらった。
そのシリーズに〝火星〟が加わったのかと思ったが、それはさすがに早とちりと思ったものの、読んでみると、なるほど火星の歩き方そのもので、カラー図版も豊富だし、記述も歩き方シリーズを踏襲していて読みやすい。
しかし、著者の臼井寛裕、野口里奈、庄司大悟三氏はJAXAだったりいずれも専門家ばかりだし、内容は専門的でやさしくはない。それでも、そもそも火星はどんな星?、気球で回る火星一周、オリンポス登山、火星の極地へなどとあって今にも火星へ旅立ちたくなる。
そもそも火星とはどんな星なのか。地球軌道のすぐ外側を公転している惑星で、自転周期は24.6時間と1日の長さはほぼ地球に近いものの、公転周期は687日と地球の約2倍。二酸化炭素を主成分とした大気があり、地表は砂で覆われている。また、地軸を傾けて公転しているため(傾き25.19度)地球と同じように四季がある。ただし、公転周期が地球の2倍なので、季節が一巡りするのは地球時間で約2年。
火星は、主に金属からなるコアと岩石からなるマントル・地核で構成され、半径は3397キロと地球の約半分、表面積は約4分の1。
火星には地球の約100分の1程度、6ミリバール程度の薄い大気が存在する。平均気温はマイナス60℃と、地球の平均気温約15℃よりもだいぶ低い。
さて、火星を歩いてみよう。ここでは、まずは気球に乗って火星を一周するルート。出発は火星の衛星フォボスから。火星には衛星が2個あるのだが、そのうちの大きい方の一つ。火星に衛星があるとは知らなかったが、フォボスは直径わずかに23キロ、月の直径約3500キロと比べてもとても小さい。
フォボスを出るといよいよ火星を周囲してくのだが、すごいのはオリンポス火山。標高が約2万1,100メートルもあり、エベレストの3倍近く。太陽系でも最も高い山といわれる。
オリンポス火山を過ぎると、次に見えてくるのはタルシス台地にあるタルシス三山。そして、マリネリス峡谷、ヘラス平原と続く。
気球から降りて、いよいよ最高峰のオリンポス登山をしてみたいが、しかし、どうやって登るのか、著者らも見当がつかないようだ。地球の歩き方は、しばしば〝地球の迷い方〟と揶揄されてきたが、これでは〝火星の迷い方〟になりかねない。
火星とはどんな星なのかを知る上で本書は最適なガイドブックだ。実際に火星旅行はまだまだ先になりそうだが、本書を読みながらまだ見ぬ地に思いを馳せるのもいい。
(光文社新書)