ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

今年も文旦届く

(写真1 今年も届いた文旦)

高知から春が来た

 今年も高知から文旦(ぶんたん)が届いた。
 世話をしてくれる人がいて高知四万十川流域の生産農家から直接届くのだが、段ボール箱を開けると、柑橘類の香りがいっぱいに広がってまるで春が届いたようだ。実際、この文旦が届くと、今年も春が来たとつくずく思う。
 文旦は、直径10数センチほど。厚手の皮に覆われている。果汁はほどほどで、夏みかんほど酸っぱくもなく、みかんほど甘くはなく、甘酸っぱさもほどほど。果実は多くとてもうまい。
 ただ、皮が厚くて、やや難点。様々な食べ方があるのだろうが、私はまず天と地を厚さ5~10㎜ほどにカットし、次いで皮を剥く。中身を取り出し、一房ずつ甘皮を剥いてそのままむしゃむしゃと食べる。ワイルドな食べ方だが、この食べ方が文旦本来の味を引き出してくれるようだ。
 とても香りが良くて、届けてくれる生産農家では、地熱貯蔵で50日ほど追熟しているようで、清涼感のある風味が生まれているのであろう。

瀬戸賢一・宮畑一範・小倉雅明編著『[例解]現代レトリック事典』

72の分類で例示

 そもそもレトリックとは、修辞のこと。文章を美しくしたり、印象深くしたり、意味深くしたりする文章技術のこと。
 本書は、このレトリックについて、アイロニー、引喩、三例法、メタファーなど72の分類にまとめて例解を示している。
 一つ拾ってみよう。
 シミリー(直喩、明喩)とくくられているものは、~のような、~に似てなどと遣われ、次のような例解が示されている。
 真夜中の悪魔のように熱くて濃いコーヒーが彼女の好みだ。(村上春樹『1Q84』)
 もっとも、私にはこのシミリーではかえってわかりにくいが……。
(大修館書店刊)

李泉『一冊で分かる中国史』

読みやすく面白い

 A5判で688ページもある。まことに大部。しかし、読みやすく面白い。2日間で読み切った。
 プロットが物語的だし、通俗的歴史の読み物を心がけているところが読みやすくしている。
 しかも、中国5千年の歴史を一人の著者が一気に書き上げたところがいい。これは画期的。だから、執筆が滑らかで連続性がある。
 中国の歴史書というと、数巻にまたがる場合は特に、時代区分ごとに筆者が代わることが少なくなく、自分の専門分野を集中して分担するということが多い。これまで日本では貝塚茂樹の『中国の歴史』(岩波新書上中下)が本格的通史だった。その貝塚が同書の中で、(1巻1時代ごとの)断代史をつなぎ合わせても通史にはならないと書いていたが、本書を読んで改めてその意を強くした。
 著者は、1949年生まれ。山東省出身。聊城大学教授。主に中国古代史の教学と研究に従事してきた。多くの教学科学研究成果が国家級省級の褒賞を受けてきたと巻末のプロフィールで紹介されている。
 本書は、それぞれの時代の小節が三つのコアで構成されている。まず、大きな紙面を活用してページの下段に年表を配置している。この編年体の年表によって歴史の発展変化の手がかりが簡潔に示されている。
 二つ目が、時代ごとの歴史背景の説明。わずか1ページ分だが、その時代について簡潔に記されている。
 例えば、秦・前漢・後漢については、次のような記述が見られる。
 秦朝(前二二一~前二〇六)は、中国の歴史上はじめての、多民族からなる統一された中央集権皇朝です。秦朝が統一後に敷いた皇帝制、三公九卿制、郡県制等の政治制度や軍事・法律制度は、中国の二千数百年にわたった君主専制制度に極めて深く大きな影響を与えます。
 簡潔を旨としながら孔子に関する記述が多い。6ページにもわたっているのである。「孔子は中国古代の偉大な思想家、政治家、教育者で、需家の学派の創始者です」などと全国行脚した孔子の足跡が詳しく紹介されている。
 三つ目の本文では、まさしく物語風の展開です。読みやすく、まるで小説を読む面白さである。しかも、ここでは関連知識の項目がリンクされており、三つにわたった記述が簡潔に整理されている。
 つまり、中国5千年の歴史を一冊にまとめるという難題に対し工夫が施され有機的なつながりが持たされているという画期的な構成になっている。
 なお、物語風とはいいながら、「内容的にフィクションは皆無で、言葉づかいの面でも過多な叙述や描写は極力避けるようにしました。筆者は文学的なタッチで史実を誇張するのでなければ、パロディー的な手法で歴史の素材を加工し、大衆をあっと言わせてその歓心を買うリクレーショナルなファストフードを作ろうというのでもなく、単に生き生きとして分かり易い文字を通じて相対的に正確な歴史の真相を還元しようと思ったに過ぎません」と前書きで記述している。
 なお、中国の歴史では、漢文・唐詩・宋詞・元曲というように各時代には文学的事象があるのだが、本書にはこのことに関する言及は見られなかった。渡邊英子訳 。
(樹立社刊)

バレンタインデー

(写真1 今年も届いたバレンタインデーのチョコレート菓子)

ホワイトデーが恐い

 2月14日はバレンタインデー。デパートの菓子売り場を通りかかったらチョコレート売り場にものすごい人だかりだった。もちろん女性ばかりだが、何でもチョコレートの年間売上の2割3割はこの時期に集中しているということらしい。
 私にもチョコレートが届いた。孫たちからのもので、いくつになってもプレゼントはうれしい。
 もっとも、孫たちにしてみれば、いつまでも元気でね、という願いが込められていることのほか、一ヶ月後のホワイトデーに照準が合わされている。つまり、お返しに期待が込められているのである。
 しかし、今年は何を贈ろうかと思案することもこれはこれで楽しいこと。私はいつでも本を贈ることにしているが、相手も歳を重ねているわけで、今年は果たしてどうか。

春は名のみの~

(写真1 白梅の花)

早春賦の世界

 今年は〝春は名のみの~〟とまだ歌わないわね、と家内が言う。
 なるほど、春が近づくと「早春賦」を口ずさむのはいつものこと。立春は過ぎたが、今年はことのほか寒いからウグイスではないが歌は思えど声もたてない。
 久しぶりに散歩に出た。梅の花が咲いていた。赤い梅、白い梅。弱いが香りもする。春が近づいてきたと感じる。

(写真2 赤い梅の花)

 梅が咲き始めると次の句を思い浮かべる。
 梅一輪 一輪ほどの暖かさ
 芭蕉の高弟服部嵐雪の句で、待ちわびた春の近いことを思わせて味わいがある。
 ロウバイも咲いていた。もっと早くに咲いていたはずだが、今年は閉じこもっていたからこれまで気がつかなかった。和菓子のような甘ったるい香りがいい。透明感のある花びらはその名の通り蝋細工の趣があり、寒さに凍えて何やら痛々しくもある。

(写真3 ロウバイの花)

 もっと足を伸ばせば、沈丁花なども見つけられたのかもしれない。

芦川智編『世界の水辺都市への旅』

都市と水の文化論

 現在の都市には、水との歴史がそのまま都市の形態となって現れている例も多く、こうした歴史や都市形成の背景をたどることは、都市の魅力を理解する一助となるとしている。
 30を超す世界の様々な都市が取り上げられている。これらは小さなカテゴリーでくくられていて、「河川に沿う」ではサラマンカ、リスボン、ワルシャワが取り上げられ、「水道橋をつくる」ではオビドス、セゴビア、イルヴァシュといった具合である。
 それぞれの都市に足を運んで調査を行っており、その都市の歴史が概観され、現在の都市の概要がスケッチされている。
 とくに、航空写真をもとに描かれたものであろうか、俯瞰図は都市の様子を描かれていて興味深い。また、各都市で広場が取り上げられていることが多いのもこの著者編者らの活動の延長を示しているようだ。
 一つ拾ってみよう。まずはポルトガルのリスボン。〝テージョ川に沿う大航海時代の都市〟と表題され、イスラムに支配された時代を持つリスボンの歴史が取り上げられ、海洋国家としてのリスボンが紹介されている。リスボンはまた水供給が常に課題となっていて、アグアス・リブレスと呼ばれる水道橋が18世紀に建設されてきた。全長941メートル。
 カラーイラストの俯瞰図には、微細な街並みが描かれて面白い。ただ、私はこのリスボンに1週間ほど滞在した経験があって知っているのだが、リスボンは丘の斜面に住宅が配置された街で、急斜面を結ぶケーブルカーが街のあちこちで運転されていてリスボンの風物詩ともなっているのだが、このことが紹介されていないのは残念だった。細かいイラストだし、組み込めなかったのであろうし、ケーブルカーということについては、私が鉄道ファンなのでことのほか思い込みが強いせいでもあろう。
 なお、著者は芦川智、金子友美、鶴田佳子、高木亜紀子。
(彰国社刊)

AMTECH(アムテック)創刊号

アディティブマニュファクチャリング情報誌

 AM(アディティブマニュファクチャリング)とは、積層造形技術のことで、レーザや電子ビーム、アークを熱源として金属などの材料を1層ずつ積み上げて構造体を造形する方法。とくに、3Dプリンターの活用によって、複雑で自由な造形が得られるところから産業界で大きな広がりをみせてきている。
 創刊号は、AMの将来性にいち早く着目したもので、AMとは何か、世界の潮流、日本における適用の現状などが紹介されている。
 2000年代に入って欧米で研究開発が進められてきており、国際会議や専門展示会がいち早く開催されてきていた。これに対し、日本においては一部の識者や企業に取り組みが見られた程度で、世界に比べやや遅れているのが実情だった。
 創刊号で興味深かったのは、巻頭のフォトレポート。
 金属3Dプリンターの応用例が紹介されており、AMでしか実現が難しいとされるわん曲した中空パイプの複雑形状、チタンの人工膝、大型部品ながら強度と軽量性の向上を実現したインコネルのプロペアギアボックスなどが取り上げられている。
(産報出版刊)