ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

春を見つけた

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(写真1 濃い紅色をした寒梅)

梅と椿咲く

 まことに寒い日が続いている。今年はことのほか寒いのではないか。もっとも、毎年同じように感じてはいるが。
 そうした中で、散歩の途中で春を見つけた。一つは梅の花。ちょっといくら何でも早すぎると思ったが、どうやら寒梅らしい。濃い紅色をしている。ということは、もう少しすると梅も本格的に咲き始めるということか。
 椿も咲いていた。乙女ツバキである。これも早すぎるくらい早い。しかし、乙女ツバキはツバキの中ではもっとも好きな種類。大変うれしい。やさしいピンク色をして整った形も愛くるしい。
 寒いとばっかり思っていたが、今年の春は早いのかもしれない。暖かくなればコロナも下火になるだろうし。

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(写真2 乙女ツバキの花)

若桜鉄道と若桜駅

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特集 私の好きな鉄道車窓風景10選

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(写真1 若桜鉄道の終点若桜駅)

深い叙情に惹かれる

 日本の鉄道には約800もの路線があるが、途中の車窓風景が楽しみというほかに終着駅が魅力という路線もある。
 その一つが若桜鉄道と若桜駅。もっとも、有名な観光地があるとかそういうことでも決してない。ただ、静かな佇まいが魅力的なのである。
 若桜鉄道は、因美線の郡家(こおげ)から若桜を結ぶ第三セクター鉄道。旧国鉄の若桜線で、全長20キロに満たなく、駅数もわずかに9を数えるだけ。

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(写真2 郡家駅で発車を待つ若桜行き列車。1両のディーゼル)

 おおかたの列車は鳥取始発で、因美線を経由して郡家から若桜線に入る。このあたりから鳥取平野を離れ、中国山地へと分け入っていく。
 旧国名なら因幡の国で、途中に因幡船岡という駅があって旧国名を教えてくれる。変化の少ない車窓が続くが、八東(はっとう)駅では構内に緩急車が留置されているのを見ることができる。一般の旅行客なら気にもとめないだろうが、鉄道ファンそれも車掌車好きには貴重なシャッターチャンスである。私はここに緩急車があることはあらかじめ知っていてカメラを構えていた。

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(写真3 八東駅に留置されている緩急車ワフ35597)

 ちなみに緩急車とは、荷物を積むスペースのある車掌車のことで、車掌車とは別に区分されており、形式略号も車掌車のヨとは別にワフがふられている。八東駅の緩急車はワフ35000型で、車番はワフ35597。なお、ここ八東駅は路線中唯一の交換可能駅である。
 沿線は林業が盛んなことが見て取れ、丹比(たんぴ)では駅前が木材の集荷場になっていた。この鉄道も、開業からしばらくは林業の利用が盛んだったらしい。
 そうこうして終点若桜到着。郡家から30分、鳥取からでも1時間弱のところ。鳥取の通勤圏に十分入っているのであろう。

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(写真4 若桜の街路案内)

 木造の駅舎があり、まっすぐに通りが延びている。角に街路案内があり、かわいらしい赤鬼が抱きついている。ここは古くは若桜鬼ヶ城の城下町だったのである。また、江戸時代には鳥取と姫路を結ぶ若狭街道と伊勢街道の宿場町として栄えてきたのである。
 街路案内にはカリヤ通りの案内もあったが、カリヤ(仮屋)とは若桜独特の街路のことで、通りと並行して小川が流れている。豪雪対策などのための用水で、今日では宿場町の風情を色濃くしている。

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(写真5 旅情が深くなるような街路)

 落ち着いたたたずまいの通りがあって、裏通りなど旅情の深くなる様子で、時間が許せばいつまでもそぞろ歩いていたくなるような街だ。通りには駄菓子屋などもあって思わず手を出したくなるようだった。

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(写真6 駄菓子屋の店先)

 実は、私は、この若桜駅には1999年4月24日と2018年10月4日の二回降り立ったことがあるのだが、20年を経て街の様子にまったく変わりのないことに驚くと同時にうれしくもなっていつまでも取っておきたいような街だと考えたものだった。

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(写真7 蒸気機関車が留置され、転車台もある若桜駅構内)

 若桜駅は、いかにも終着駅らしく小さな鉄道ながら大きな構内を持っている。蒸気機関車C12 167号車も留置されている。企画運転のものであろう。転車台もある。
 また、奥の車庫には車掌車も格納されていた。ヨ8000型のヨ8627で、ピカピカに磨かれておりいつでも動くように動態保存されていた。イベントの時などにはSLに連結して運転されるのだろうと思われた。

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(写真8 若桜駅に動態保存されている車掌車ヨ8627)

<路線概要>
起点/郡家駅
終点/若桜駅
駅数/9駅
路線距離/19.2キロ
開業/1930年1月20日
運営/若桜鉄道(1987年10月14日第三セクターに転換)

不動まゆう『愛しの灯台100』

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ほとばしる灯台への愛情

 不動さんは、フリーペーパー『灯台どうだい?』の編集長。自費発行で無料配布している。テレビやラジオへの出演や新聞、雑誌への執筆でも知られ、灯台フォーラムの運営にも携わっており、その多くは灯台ファンを増やそうというもので、ユーザー・オリエンテッドな活動は広範な支持を得ている。
 言わば灯台ファン第一人者の灯台本ということになるが、その内容は、日頃の活動と同じように、灯台ファン初心者のための格好のオリエンテーションとなっている。
 とにかく灯台への愛情がほとばしるようで、記述はやさしく、美しい写真が添えられているし、灯台の魅力が熱っぽく語られている。
 全国100の灯台が紹介されていて、一つに1ページから2ページの分量で、ページをめくるのが容易。それぞれの灯台について机上では得られない情報が盛り込まれていて、塔高、灯質、灯器といった灯台の基本情報から、のぼれる灯台か、重文や文化財に指定された灯台であるかなどとアイコンで示されているのも親切。簡単なアクセスも紹介されている。
 一つ引いてみよう。剱埼灯台(つるぎさきとうだい)。航路標識番号2018、所在地:神奈川県三浦市南下浦町松輪47、アクセス:バス停「剱崎」徒歩20分、初点灯:明治4年1月11日(旧暦)、1871年3月1日(西暦)とあり、有料P(徒歩5分)と親切。さらに、塔高:17メートル、灯質:AlFl(2+1)WG30S、灯器:第2等3面閃光レンズと基本情報が記されている。
 本文では、〝レンズファンに絶大な人気を誇る〟と見出しがあり、「理由は、塔が低く、下から見上げた時にレンズを鑑賞しやすいから。そしてレンズの表情も豊かだ。白い光を2回点滅させるために、小振りなレンズが2面並んでいる側と、緑の光を1回点滅させる大きな1面の側がある。」などと解説している。ちょっとマニアックだが、これはレンズフェチ向けかもしれない。
 ユーザー・オリエンテッドということでは、本文中に挟まれているコラムが貴重。灯台各部の名称と用語、フレネルレンズと光などとあって参考になろう。
 とにかく豊富な情報をコンパクトに抜き出してやさしく初歩向けに書かれているところがいい。この本を手にしたら、美しい写真に魅入られるだろうし、自分も灯台を訪ねてみたいと思うに違いない。ただし、本書は灯台紀行ではないので念のため。
 掲載されている100の灯台は、著者の好みによるものだろう。また、紙幅には限りがあっただろうから、随分とはずしたところもあったに違いない。著者はフットワークがいいらしく、船で渡るしかないような孤島の灯台もたくさん取りあげている。これは素晴らしい。こういうところには、仲間を募って釣り船をチャーターして向かえばいいと手法を紹介している。
 実は私も灯台ファンの端くれ。随分と日本中の灯台を踏破してきた。大部分は本書に重なるが、なぜにここの灯台が選ばれなかったのだろうと思われるところがあった。もちろん、著者の選定でいいわけだし、すべてを網羅することは不可能なわけだが、それにしても、例えば、九州最南端佐多岬灯台や人気の高い足摺岬灯台が入っていなかった。いずれも素晴らしい岬に素晴らしい灯台だからちょっと解せなかった。また、灯台そのものの魅力には欠けるが日本最南端ということで波照間島灯台がはずれていた。
(書肆侃侃房刊)

寺井力三郎展

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(写真1 寺井力三郎<廻送列車>=会場で販売されていた絵はがきから引用)

暮らしに息づく絵画

 埼玉県加須市のサトヱ記念21世紀美術館で開催されている。
 寺井は埼玉県羽生市在住。1930年生まれで、卒寿記念とある。代表作がそろっており画業の全体像を概観できる内容となっていた。
 静謐な作品が多い。これには、色をやわらかく塗り重ねる、ある種、点描のような画風によるところも大きいと思われる。
 題材は、何気ない風景など身の回りのものが多く、ややもすると平凡となるところ、大胆な構図に特徴がある。散歩の途中で見つけた風景が多く、鉄道や飛行機も好きだったようで、たびたび題材にしている。
 面白かったのは<廻送列車>(1994)。真っ赤に燃える夕陽を背景に電気機関車と車掌車が連携されて走っている。赤い空に映し出された黒い列車のシルエットが叙情をかき立てる。沈む直前の太陽と赤く染まった空がじつに美しくも見事だ。このごろでは車掌車はめったに見ることがないから珍しい風景だ。作者の居住地から類推すると車掌車は東武鉄道のものかもしれない。JRには見られないタイプでデッキが前後に張り出しているのが特徴だ。
 また、興味深かったのは<帰れぬ船>(2013)。津波で打ち上げられた大きな船が描かれている。私はこの情景はよく知っているが、大船渡線の鹿折唐桑駅前だったから、海岸から数百メートルも離れたところに横たわっており信じられないような風景だ。画家も同じような印象だったのか素早くスケッチしたものらしい。
 寺井は利根川の河畔をよく散歩したようで、これをモチーフに何枚もの絵を描いている。<冬場の利根川>(2012)もその一枚で、いかにも寺井らしい構図であり、抜けるような青空が美しくやわらかな画面が印象深い。利根川を渡る鉄橋は東武伊勢崎線であろう。モデルは寺井の作品にたびたび登場している妻であろうか。寒い冬の朝であろうが、帽子を脱がせ手に持たせている。
 それにしても、赤い夕焼け空といい、朝日のあたる青い空といい、これほど美しい空を描いた作品というのも珍しいのではないか。

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(写真2 寺井力三郎<冬場の利根川>=会場で配布されていた開催案内のチラシから引用)

サトヱ記念21世紀美術館

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(写真1 彫刻が立ち並ぶ美術館の外観)

彫刻と絵画と庭園と

 埼玉県加須市所在。東武伊勢崎線花崎駅から徒歩約20分。平成国際大学と道を隔てて向かい合っている。同大はスポーツで鳴らす埼玉栄高校や花咲徳栄高校などを擁する佐藤栄学園の運営で、美術館は公益財団法人の運営だが、美術館もどうやら同じグループに属するようだ。開館20年とある。
 和風の住宅のような構えの門を入ると、広々とした日本庭園が広がり、おびただしい数の彫刻が屋外展示されている。
 美術館は平屋建て。入ると広々としたホール。多数の彫刻が展示されている。ロダンの作品が多い。また、舟越保武や佐藤忠良があり、日本の代表的な作家の作品が並んでいた。この中では、舟越保武の<婦人像>(1985)や<Miss G>(1984)が断然良かった。
 展示室には常設展示室と企画展示室があり、常設展示室にはヴラマンクやシスレーの作品が多く見られた。
 屋外展示は、庭園を巡るように配置されており、この日は冬枯れだったが四季折々の風景が楽しめそうだ。
 展示されている彫刻には舟越保武の<杏>があった。舟越の代表作の一つで、すっきりと立つ気品ある少女が美しい。手に杏を持っている。(2021年1月22日取材)

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(写真2 屋外展示の舟越保武<杏>)

ジェフリー・アーチャー『レンブラントをとり返せ』

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新しい警察小説のシリーズ

 アーチャーの新作である。それも警察小説である。アーチャーに警察小説は初めてではないか。もっとも、アーチャー自身は「これは警察の物語ではない、これは警察官の物語である」と巻頭に一筆入れているが。
 主人公は、ウィリアム・ウォーウィック。あれっ、待てよ、この名前は『クリフトン年代記』の主人公だった作家ハリー・クリフトンの作品の主人公の名ではなかったか。確か、この人物はあの作中では亡くなったはずだが。
 そのことはともかく、ウィリアムの父は一流の勅撰法廷弁護士であるサー・ジュリアン・ウォーウィックであり、同じく姉のグレイスも弁護士。
 言わば法曹一家ということになるが、ウィリアムは父の期待に背いて大学では美術史を学び、卒業するや警察官となった。しかも、警察学校を修了し、大卒は昇任が早くなるという有利な条件を行使せず、一般の新人と同じ条件で警察官人生をスタートさせた。このため、刑事を希望できるまで二年間は地域を巡回しなくてはならなくなったが、ウィリアムはそれを受け入れた。
 そして、ベッカム署における二年間の地域巡回任務を経てスコットランドヤードに呼ばれ、美術骨董捜査班に配属された。すでに刑事昇任試験は成績首位で合格していた。
 ロンドン警視庁の美術骨董捜査班は、ジャック・ホークスビー警視長をトップに、ブルース・ラモント警部、ジャッキー・ロイクロフト巡査部長の面々。ウィリアムは下っ端の捜査巡査である。 ちなみに、イギリスの警察官の職階はうるさくて、同じ巡査でも、捜査をする巡査は捜査巡査あるいは刑事巡査と呼ばれ、制服を着て任務に従事する巡査とは峻別されている。同じように、弁護士も法廷弁護士と事務弁護士とは役割分担が明確に分かれている。
 捜査班が眼中に置いているのが、マイルズ・フォークナー。名うての美術品窃盗詐欺師である。捜査班は7年間にわたってフォークナーを追ってきていた。フォークナーは統制された高度な組織を作り上げており、このプロの犯罪者グループはフィッツモリーン美術館からレンブラントを盗み出していた。
 ここからアーチャー得意の手に汗を握るようなスリリングな展開が始まる。フィッツモリーン美術館の調査助手ベス・レインズフォードが登場し物語を華やかにしてくれている。
 どうやら本作は新しいシリーズの1作目のようだが、またまた魅力的な主人公を生み出したものだ。八十歳にもなってストーリーテラーアーチャーに筆の衰えは全く見られないようだ。
 アーチャー作品の面白いところの一つはその魅力的な文体であろう。原文で読んでいるわけではないがイギリス独特のレトリックがしゃれているし小説に磨きをかけている。
 500ページあまりの文庫本を読んできて、最後の1行が、詐欺師フォークナーがニューヨークに来いよと誘いながらウィリアムの耳元でささやいた(その理由は)「本物が見られるからだよ」とは思わずにやりとさせるではないか。(戸田裕之訳)

(新潮文庫)

春遠からじ

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(写真1 うっすらと赤く染まりだした冬のあけぼの)

冬来たりなば

 冬来たりなば春遠からじ。
 イギリスのロマン派詩人シェリーの詩の一節で、辛いことがあっても耐えていればいずれは幸せがやってくるというのが本来の意味らしいが、寒く厳しいとはいっても冬が来たということは、暖かい春の日がそこまでやってきているというふうに解釈すると、寒いのが嫌いな私にもこの言葉は励みなる。
 早朝のウォーキングはまことに辛い。家を出る6時くらいではまだ暗くて、気温も零度近くてもっとも寒い時間帯。
 それでも歩いているうちにすぐに明るんでくる。遠くが赤く染まりだしたこの瞬間が私は好きだ。それに、歩いているうちに体も温まってきて、何しろ、早足で一生懸命歩いているから20分もすると汗ばんでくる。

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(写真2 地味な花だが香りが誘ってくれるロウバイ)

 いつも立ち寄る公園にロウバイが咲いていた。適当な言葉が見当たらなくて、和菓子のようなと表現しているが、やさしい香りが好きだ。冬の寒さの中で香りの立つ花というのも珍しいのではないか。
 カンツバキも咲いていた。サザンカとツバキの交雑種で、晩秋や冬のサザンカから春のツバキへとつなぐ貴重な彩りだ。鮮やかな朱色とつややかな緑色の葉が春が近づいていることを知らせてくれる。

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(写真3 貴重な彩りはカンツバキ)