ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

石川祐基『日本のもじ鉄』

鉄道サインと書体の図鑑

 鉄道の駅名標や駅舎看板、出口案内や構内のサインなどに使われているデザインと書体を集めた図鑑。
 全国201の路線が収録されており、何とケーブルカーや貨物線までも網羅しているという徹底ぶり。
 JR東日本については渋谷駅の駅名標を写真で例示、最も大きな書体の駅名が漢字であること、使用書体は新ゴBであること、4か国語表記であること、使用書体数は5書体であることなどが解説されている。また、路線を走っている電車E235系の写真も載せられている。
 かつて、国鉄時代の駅名標はひらがなで、使用書体はすみ丸ゴシックだった。このすみ丸ゴシックについては、中西あきこ著『されど鉄道文字』に詳しく、同書が一般人を鉄道文字に興味を持たせた嚆矢だった。
 それが、本書によれば、すみ丸ゴシックは今やほとんど姿を消し、大半の駅で新ゴとなっているようだ。新ゴとは、モリサワが開発したゴシック用の書体で、いくつものバリエーションがある。
 また、このごろの駅名標には、駅のナンバリングや多言語表記にも対応しなければならず、駅名標の場合、限られたスペースにどのような情報を載せるかは各社の工夫のしどころである。
 東武鉄道は、駅名標に住所表記も行っている。このごろでは少なくなってきた情報だが、これはありがたい。県をまたぐような長い路線の列車に乗っている場合など、停車中の駅が何という市町村なのか、また、●●県に入ったなどとわかることは旅の情緒が膨らんで楽しい。また、住所表記がないと、品川駅が品川区ではなく実は港区だなどということもわからないでしまう。
 このごろでは多言語表記をする駅も増えたが、すごいのは東武小泉線の西小泉駅で、日本語、英語、中国語、韓国語、ポルトガル語、スペイン語と6か国語表記。人口に占める外国人居住率が高いからだと解説している。
 もっとも、京成日暮里駅などは、英語がメインで、日本語表記はサブ扱いとのこと。成田空港と結ぶ都心側のターミナルということで外国人観光客に対応したもののようだ。
 掲載されている駅名標を見比べてみたら、阿武隈急行がよかったように思われた。かな漢字に使用書体数も1書体となっており、すっきりと見える。駅名のひらがながナールEという書体もやさしく見えていい。このごろではあれもこれもと詰め込んでいちいち書体も変えているからごちゃごちゃした感じがしてかえって煩わしい。西武秩父駅の駅名標の書体が教科書体というのもゴシック系のように我を張らずかえって新鮮だった。たくさんの書体を使い分けたいのは新米の編集者のようでこれはいかなものか。
 本書は本文が448ページ。まさに図鑑の分厚さだ。大変な労力が必要だったらうと思われる。けだし、労作である。
 一般人は、新ゴBも新ゴMもその違いなどに気がつかないが、著者はグラフィックデザイナーという職業柄、字を見れば書体がわかるのだろうし、なればこそ書体にはいちいち気になるのであろう。
 ちなみに、〝もじ鉄〟とは、鉄道の駅の看板や文字が好きな人のこと呼ぶとある。私も鉄道ファンだが、私の場合は徹底して乗り鉄である。
(三才ブックス刊)