(写真1 映画館で配布されていたチラシから引用)
パレスチナとイスラエル
今も紛争の絶えないパレスチナとイスラエル。永遠に和平の道は開けないのか。
この二つの国の若者たちを集めてオーケストラを結成しようとする物語。奇跡のようなプロジェクトだが、実話がモデルになっている。
世界的に著名な指揮者のスポルク。ドイツ人である。コーディネータの女性から計画を持ちかけられ、初め、不可能なことだと一顧だにしなかったのだが、最終的には引き受ける。
テルアビブに赴き、団員のオーディションを行う。パレスチナ人、イスラエル人半々というのが約束。しかし、パレスチナ人には、イスラエル人と一緒にオーケストラを行うというと、同胞から〝裏切り者〟と罵られる始末。イスラエル人も同様である。
案の定、オーディションが済んでオーケストラとして一緒に練習をしても、互いに罵り合う始末。
しかし、集まった若者たちには、音楽家になるという野望があり、そのためには世界的にも著名なスボルクのもとでキャリアを積むという思惑があってかろうじて瓦解はしないでいた。
テルアビブでの練習が軌道に乗らないことからスボルクは団員をチロルに連れて行き、21日間の合宿を行った。
スボルクは様々な工夫を凝らして団員の融和を図り、音楽を取るのか、平和を望むのかと迫っていく。
やがて練習が軌道に乗ってくる。スボルクは、「お互いをリスペクトしろ」と鼓舞する。
音楽が良かった。
初め練習で演奏されたのはバッヘルベルの「カノン」。カノン形式とも呼ばれるように、ある種スパイラル状に演奏が途切れることなく続いていく音楽だから、そこへ二人三人と練習に加わっていき、最後には全員がまとまる。適切な曲を選んだものだ。カノンなら誰でもどこからでも演奏に入っていける。カノンが最高潮に達したとき、このオーケストラは成功すると思わせられた。
ヴィヴァルディの「四季」が演奏された。美しいメロディーに誰も異存はない。
いよいよ練習も終盤となり、コンサートが近づき、テレビ中継も行われるというときに、事件がおこる。
コンサートは中止になり、団員は肩を落としてそれぞれの国に帰ることに。帰国便を待つあいだ、行き先別のラウンジでパネルを挟んで隣同士になった団員たち。すると、一人がラヴェルの『ボレロ』を叩き、次第に同調するものの輪が広がり、やがてドヴォルザークの『新世界から』につながっていく。
パレスチナ人、イスラエル人全員が演奏に加わった姿を見て、両国の若者たちでオーケストラをつくろうするプロジェクトは無駄ではなかったと思わせられた。新世界に向かっていたのである。
この映画にはモデルがあって、バレンボイムの和平オーケストラ「ウエスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団」だとのこと。
ダニエル・バレンボイムは、アルゼンチン出身のユダヤ人。世界的にも著名な指揮者であり、偉大なピアニストとしても知られる。何しろベートーヴェンのピアノソナタ全32曲の録音を5セットも残しているというほどで、これは世界唯一。
指揮者としても巨匠の誉れが高く、世界の名だたるオーケストラを指揮してきた。コンチェルトでは、自らピアノを弾き、オーケストラを指揮するいわゆる〝弾き振り〟でも人気が高い。
実は、私は、ベートーヴェンのシンフォニーを指揮させて現在のナンバー1はバレンボイムではないかと評価している。そのバレンボイムが、中東の障壁を打ち破ろうと活動していることはうれしいかぎりだ。
なお、題名のクレッシェンドとは、音楽用語で段々と強くの意味なそうだが、ここでは、絆を強くの意味であろうか。