ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

イ・スラ『日刊イ・スラ』

韓国女性のメルマガ

 イ・スラは、韓国の若い女性。ソウル在住。27歳。日刊・イ・スラとは、イ・スラが発行するメールマガジン。毎週月曜から金曜まで5日間発行していて、購読料は1カ月1万ウォン(約千円)。これで、学費ローンの返済にあてた。
 本書は、2018年から2019年の連載を『日刊イ・スラ随筆集』としてまとめたもの。イ・スラ初めての刊行本だった。
 若い女性のメルマガなどおよそ読むことのないもの。それが、韓国女性が書いたということで手にしたようなものだが、これが読んでみると、イ・スラは率直にして気取らず、才気煥発あるいは胆力があって、しかも、とてもしなやかさが感じられた。平易な文章に惹きつけられてページをめくる手がもどかしくなるほど。
 好きな人とご飯を食べるときは、箸を使うのが生まれて初めてのような感覚になる。食べものを挟んで口に入れることが、こんなにぎこちないはずがない。……。緊張する相手とはなるべく食事の約束は避けて、コーヒーの約束だけにしておいたほうがいい。
 年が明けたある日も、コーヒーの約束に急いで向かっていた。その人に会いに行く途中、何だか不安だった。やっぱり、すごく好きなんだとわかったからだ。
 本書を読んで面白かったことは、韓国の人たちの生活がさりげなく率直に書かれていたことだ。
 父親のこと、母親のこと。韓国では、若い人たちが両親を思いやる。日本では薄れてきた家族関係だ。
 徴兵制もまた日本にはない制度。友人に入隊通知書が前触れもなく届く。即時入隊を避けるために海外へ出ることとし、友人らと一緒に日本にやってくる。
 旅の途中、大阪の居酒屋で、文在寅と金正恩との会談のニュース報道に接する。イ・スラらはやはりうれしそうで、北も南もやはり同じ民族なのだということを思い知る。しかし、それはごくさりげなく表現されていて、決して政治的な話題にすることはなかった。
原田里美・宮里綾羽訳。
(朝日出版社刊)