北国の本屋が起こした奇跡の物語
著者は、北海道砂川市のいわた書店の店主。町の小さな本屋が経営に四苦八苦する状況下、いわた書店も例外ではなく、危機的状況の中でいわた書店が編み出したのは〝一万円選書〟という仕組み。
一万円選書とは、客一人ひとりの求めに応じて1万円分の本をオーダーメイドで選書すること。選書するに際して客にアンケートをとることがポイント。
アンケートは詳細。
・これまでに読んだ本で印象に残っている20冊。
・これまでの人生で嬉しかったこと、苦しかったこと。
・何歳の時の自分が好きか。
・上手に歳をとることができると思うか。もしくは10年後どんな大人にになっていると思うか。
・これだけはしないと決めていること。
・いちばんしたいこと、あなたにとって幸福とは何か。
選書をする際の参考とするためで、これが選書カルテ。言わば、医者が処方をする際の決めてとするカルテみたいなもの。また、客にとっては自分を振り返るよすがともなっているようだ。
こうしてカルテを徹底的に読み込んで、客に読んで欲しい本を10冊ほど、1万円分を選んで送っているのが1万円選書の仕組み。
1万円選書の募集をするのは1年で7日間だけ。そこに約3700人もの応募があるといい、応募者の中から毎月100名ずつランダムに抽選、当選者にはカルテを書いて送ってもらい、順に選書した本を届ける。過去7年間で選書した人は1万人を超えるというからすごい。
1万円選書というやり方が軌道に乗り、今や店頭よりも1万円選書の方が売上が多いのだという。
しかし、この1万円選書というやり方は、どこの書店でもできそうで、なかなか難しいのではないか。まず、自らが読書家でなくてはならない。それも幅広く。選書結果を見ると詩集まで含まれている。また、一人ひとりの客と向き合うわけだから時間がかかる。それも、どんな本を選んでくれるのか、人生を変えるほどの本が選ばれているのか、真剣に期待を膨らませて待っている、そんな客にすすめる本だから選ぶ方も真剣にならざるを得ない。
どんな本を選んでいるのだろう。選書結果を抜き出してみた。多数の読者に選んだという本の中から代表的なもの。
・加納朋子『カーテンコール』
・朝倉かすみ『田村はまだか』
・いしいしんじ『トリツカレ男』
・金井真紀『パリのすてきなおじさん』
・植田正治写真・池井昌樹詩『手から、手へ』
・長田弘『深呼吸の必要』
・萩原慎一郎『歌集 滑走路』
・ベルンハルト・シュリンク『朗読者』
・ソン・ウォンビョン『アーモンド』
なお、付け加えておかなければならないことは、いわた書店の選書サービスは、本代そのものと送料のみで、サービス料は必要ないとのこと。
(ポプラ新書)