ABABA’s ノート

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映画『リスペクト』

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(写真1 映画館で配布されていた散らしから引用)

極上の音楽エンターテイメント

 ソウルの女王と呼ばれ史上最も偉大な100人のシンガーの第1位に選ばれた伝説的歌手アレサ・フランクリンの半生が描かれている。アレサを演じたのがアカデミー賞、グラミー賞に輝くジェニファー・ハドソン。物語の面白さに加えジェニファーの歌唱力がこの映画を一級のものにしていた。
 1952年デトロイト。自宅パーティーの席上、10歳のアレサは父親から1曲歌うよう命じられる。その歌を聴いた客たちはアレサの歌に一様に驚く。アレサは子どものころから天才だったのだ。
 しかし、牧師の父親も、その後結婚した夫も、アレサの才能は認めながらも自分たちの型にはめようとしていた。
 自由に歌いたいという強い願望を持ってアレサは姉と妹を伴ってニューヨークに出て行く。
 1968年のマディソンスクエアガーデンの大舞台が人気、実力を不動のものにしたのだったか。25歳になっていた。
 しかし、アレサには常に不満があった。黒人だ、女だという世間の固定観念が許せなく、私にもっとリスペクトしてくれ、つまり、相応の敬意を払ってくださいという悲鳴にも似た叫びがあった。
 こういう反骨精神があったからか、アレサは次第に公民権運動に深く関わっていく。周囲では歌手の人気に水を差すと言って懸念する声もあったのだが、彼女は気にせず信念を曲げなかった。
 マーティン・ルーサー・キングが暗殺されたときには茫然自失として歌手をやめるのではないかと思わせるほどに衝撃を受けていた。しかし、葬儀での歌は哀悼に満ちていても力強いものだった。
 題名のリスペクトは原題のままだが、これはアレサのヒット曲のタイトルでもある。劇中の字幕では敬意と訳されていた。このごろでは日本語のなかでも遣われるようになっているが、意味が広い。
 劇中ではヒット曲が次々と登場していて見応えがある。とにかくアレサを演じたジェニファーの歌唱が素晴らしかった。大変な迫力だった。ジェニファーなくしてこの映画は成り立たなかったのではないか。まるでアレサの実写映像が挿入されているのではないか、そのようにも思えたほどだった。
 映画の最後には、いつもの通りキャストとスタッフの名前が延々と続いたのだが、ここでこの映画には工夫があって、名前の右半分の画面には、アレサの実写映像が並行して映し出されていた。ドキュメンタリー映画ではないが、ドキュメンタリーの価値観を持たせたものであろう。
 この中で、存命中のアレサが自身でジェニファーにアレサ役をオファーしていたように受け止めたが、どうだったか。映画の公開はアレサの死後だが、制作には関わっていたのかも知れない。
 また、この映像のなかには、オバマも登場していた。アレサはオバマの大統領就任式で歌っていたから大変名誉なこととして紹介したのであろう。
 延々と続くエンディングのなかでも、観客は誰も席を立たなかった。いつもなら終わりを待たずに席を立つ人が多いのに。つまり、そういう映画だったということ。感動が余韻を持たせていたのだ。
 リーズル・トミー監督。2021年アメリカ映画。