ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

ショーン・バイセル『ブックセラーズ・ダイアリー』

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スコットランドの古書店主の日記

 スコットランドの古書店主の日記である。
 毎日のネット注文数やら売上高、顧客数が記録され、従業員のこと来店した顧客のことなどが書かれているだけで、元々は備忘録として書かれたものなのだが、これが実に面白い。スコットランドのこととは言え、古書店経営の実態がつまびらかにされていて興味深いし、そして何よりも、店主は当然ながら本好きであり、本の話題が充満していて楽しい。
 店の名は、その名も簡潔にザ・ブックショップ。ウィグタウン所在。ウィグタウンは、スコットランド南西部に位置する。ウキペディアによれば、人口わずか1千人の小さな町。この町は、スコットランド政府が打ち出した地方都市再生プロジェクトに選ばれ、ナショナル・ブックタウンとなった。ブックフェスティバルも開かれ、14もの書店があると言う。全国的にもブックタウンとして知られ、多くの観光客が訪れるようだ。
 ザ・ブックショップは、在庫総数10万冊。スコットランド最大の古書店となっている。
 本書は日記になっていて、月ごとに日々の動きが綴られている。
 多い日、少ない日があるが、6月7日土曜日の項には、ネット注文数2、在庫確認数2、本日の売上額128ポンド(1ポンドは約150円)、顧客数20とある。在庫確認数とは在庫の問い合わせのあった数のことだろうか。また、顧客数とは来店者数のことだろうか。総じて厳しいやりくりのようだが、売上額989.30ポンド、顧客数95などという日もある。
 ネット売上は意識的に抑えているようだ。店頭を上回ることはないと言っている。在庫10万冊のうち1万冊分だけをネットにあげている。アマゾンとエイブックスが取引先で、アマゾンの巨大さに脅威を感じている。しかし、ネットの注文はベルギーやドイツなどと世界中から届く。
 本の買い取りは、たいてい見知らぬ人からの電話で始まる。夫が亡くなったので蔵書を整理したいなどということが少なくない。専門分野でまとまっていることが好ましい。航空関係の本600冊のうち300冊を750ポンドで購入などとある。
 客層は幅広い。常連客もいるし、観光客がバスで乗り付けることもある。ある日の家族連れはママパパこども4人の6人家族で、175ポンドの購入だった。4人の娘にクリスマスプレゼントを選ぶのを手伝って欲しいと頼まれたこともあった。
 ところで、この日記には、毎月の冒頭に、ジョージ・オーウェルの『本屋の思い出』(1936年、ロンドン)からの引用が出ている。なかなか含蓄のある文章だが、オーウェルが古書店主をやってたなどと言うことは寡聞にして知らなかった。50年前に読んだ『カタロニア讃歌』については本書でも言及しているが、アーネスト・ヘミングウェイの本だと思い込んだ客がいたというエピソードも愉快だ。
(白水社刊)