ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

ショーレ・ゴルパリアン『映画の旅びと』

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イランから日本へ

 著者はイランの映画人。イランと日本の間を行ったり来たり、日本に住んでもいた。
 そもそもは日本の民話を読んで日本に憧れるようになり、学生時代、日本の商社でアルバイトをして日本語が出来るようになった。英語は元々出来ていた。次第にペルシャ語と日本語がちゃんぽんになり、夢を見るときもイラン人の夢はペルシャ語で、日本の夢は日本語で見るようになっていた。
 やがて来日して在日イラン大使館に勤めるようになり、大使秘書にまでなった。イランと日本を頻繁に往復するようになっていた。
 映画と関わるようになったのは、イランに帰ってから。テレビ局の仕事で、日本の番組をペルシャ語に翻訳していた。それまで、日本の番組は、英語の台本から訳していたものを、それでは微妙なニュアンスが違うといって、日本語から直接ペルシャ語に訳出して成功した。
 また、日本映画の字幕を手がけるようになっても、日本語からペルシャ語に訳出していた。日本語とペルシャ語は言葉遣いが近いのだそうで、そういうニュアンスを大事にしてきた。このことは大賛成だ。外国の映画を観ていて、ニュアンスが違うのではないかと思うことがしばしばで、私自身は外国語は苦手なのだが、残念に思ってきた。
 その後、イランと日本の映画界との橋渡しをする仕事が多くなっていった。日本語が出来て、英語もフランス語もできるということで貴重な人材だった。
 とにかく文章が平易でユーモアたっぷり。本書も、著者に編集者が日本語でインタビューしたものを再構成し、最後に著者自身による加筆・修正を行ってできあがったとのこと。内容も生き生きとしてエピソードが多くて興味深い。
 イランと日本の異文化がさりげなくしかし鋭く指摘されているし、これほど日本に精通したイラン人がいることをわれわれは感謝したいものだ。
 イランで日本の映画は人気なそうで、革命後も、特に黒沢や小津など日本の映画は映画館を満員にしているということである。時代劇では女性の肌を見せないのがとてもいいことらしい。
 また、イランでの映画制作においては、室内の場面でも女性はペジャブをかぶったままで撮影しなければならず、イラン人監督の難題になってるとのこと。普段は自宅ではペジャブはしていない。
 私は映画が好きで、外国の映画も積極的に観ているが、イランの映画事情が本書によってつまびらかになったことは、イラン理解の手助けになったようで大変貴重なことだった。
(みすず書房刊)