ABABA’s ノート

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ベートーヴェンの交響曲全集

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(写真1 交響曲全集のCD外装)

ワルター指揮コロンビア交響楽団

 ベートーヴェンの楽曲。まずピアノソナタ全32曲をウイルヘルム・ケンプのピアノ全集(CD8枚)で聴き、次にピアノ協奏曲全5曲を内田光子ピアノ、クルト・ザンデルリング指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の全集(CD3枚)で楽しんできた。続いて交響曲にも手を伸ばし、ブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団の演奏を繰り返し聴いている。なお、ベートーヴェンの交響曲全集はいくつかの演奏者のものが出ているのだが、最も評判の高いカラヤン指揮ベルリンフィルのものは3番5番7番とすでに持っているし、ちょっと古いが名盤として知られるこのワルターの全集にした。
 7枚のCDからなる全集で、交響曲そのものは5枚のCDに収まっているのだが、残る2枚にはリハーサルの模様などが収められていて面白い構成。
 ワルターは、20世紀を代表する指揮者で、フルトヴェングラーやトスカニーニと並んで三大巨匠と呼ばれた。
 交響曲9曲を繰り返し通しで聴いてわかったこと感じたこと。
 ベートーヴェンの交響曲は、当たり前のことかも知れないが9曲がそれぞれに独立性が高いということ。つまり、似たようなものがないということ。1曲ごとにチャレンジしていて、例えば、それまでの交響曲では使わなかったような楽器をオーケストラの構成のなかに投入しているし、進取の気性に富んでいるのである。
 また、ソナタ、コンチェルトと続けて聴いてくると、ソナタやコンチェルトで使った旋律なり手法なりが交響曲に対して集大成として反映されているようだった。
 形式も従来のものにとらわれていない。シンフォニーは4楽章構成が通例だろうが、5楽章のものがあるし、コーラス付きも本格的にはベートーヴェンが初めてだった。
 ワルターの指揮は、よけいな余韻に流されることもなく、ストンと終わる。スコア通りなのだろうが、時にびっくりするほどにあっけない。
 音楽に対するたいした造詣もなく、音を聞き分ける耳も持たず、漫然と聴いているだけの者が恥ずかしいのだが、ここは臆せず各曲の印象をひと言だけだがメモを記してみよう。なお、メモは私の習慣。本を読んでも、映画を観ながらでも、美術を見ても、コンサートに行って音楽を聴きながらでも必ずメモをする。すぐにメモを取ることでその場の印象を残す。
 第1番。伝統的形式。独奏楽器のないコンチェルトのよう。オーケストラの編成は小さいのではないか。演奏時間も9曲中最も短く23分38秒。
 第2番。第1番に比べドラマティックになり叙情性も感じられた。演奏時間35分45秒。なお、演奏時間は指揮者によっても随分と違うようだ。
 第3番。「英雄」。大曲。演奏時間が50分ちょうどと長い。ダイナミックだし、ストーリーを感じさせる。
 第4番。ある種の朗らかさが感じられた。31分49秒。
 第5番。「運命」。ベートーヴェンの、というよりもおよそシンフォニーのなかで最もポピュラーな曲であろう。躍動的だが、各楽章ごとに強い葛藤が感じられる。ただ、完成度は高いのではないか。少なくとも日本では。32分42秒。ピッコロとホルンが印象的。
 第6番。「田園」。40分49秒と長い。5楽章まである。出だしから旋律が印象的だし、とにかく曲想が豊か。
  第7番。リズミカルでダイナミック。第3楽章は荘重で、第4楽章は激しい。38分9秒。
 第8番。著名ではないが、こんな言い方をすると生意気だが意外にいい。フィナーレはいかにも大団円だ。26分34秒。
 第9番。「合唱」。壮大で格調高い。第4楽章からコーラスが加わる。コーラスは「歓喜の歌」と呼ばれているらしいが、私にはドイツ語はわからない。歌詞の中身がわかればもっと楽しめるのだろうが。訳詞を手元に置いておけば多少は楽しめる。演奏される国の言葉で歌われることもあるようだ。私には経験がないが。とても長くて71分56秒も要した。
 まとめ。
 好きなのは「田園」。絵画的と呼べる。曲に浸っていたくなる。
 いい曲と思うのは「英雄」。力強く、最もベートーヴェンらしい。特に第4楽章がいい。私の友人で、音楽に造詣が深くて、「英雄」は演奏家ごとに実に32枚ものCDを持っているやつがいる。それほど惚れ込める曲ということだろうか。
 私の人生で忘れ得ない曲としては断然第7番だ。高校時代、周囲にクラシックファンが数人いて、それらの友人宅を訪ねてはレコードを聴かせてもらっていた。そのころ、自宅には兄のステレオがあったのだが、自分の部屋に自分のステレオがないのが不満で、それで、2台のハイファイラジオをスピーカーとアンプに代用し、レコードプレーヤーだけは新たに購入して簡便なステレオ装置を構築していた。
 それで、レコードを購入しようとして友人たちに相談したところ、第7番がいいのではないかと助言された。クラシックファンでも持っているものが少ないし、曲もいいということだった。
 購入した第7番は、それこそレーコードがすり減るほどに繰り返し聴いた。カラヤン指揮ベルリンフィルの演奏で、レーベルはドイツグラモフォンだった。リズムがあるし、ダイナミックで曲がよかった。
 後年、40数年も経って、N響の演奏会でこの第7番が演奏されたときには、思わず涙ぐんだ。高校時代が思い起こされたのである。今や、この曲を薦めてくれたくだんの友人は、昨年鬼籍に入ってしまった。年に2回くらいの頻度で酒を酌み交わしていたが、このごろはコロナ下のこと機会が減っていて、再会できないままだった。無念。コロナが恨めしい。