ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『明日に向かって笑え!』

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(写真1 映画館に掲示されていたポスターから引用)

アルゼンチン映画

 2001年、アルゼンチンの田舎町。不景気な時代。住民たちはなけなしの金を出し合って農業の会社をつくろうと動き出す。古い建物を買うこととし出資金を募る。集まった金をいっとき貸金庫にしまっておいたのだが、銀行の支店長から融資を受けるなら銀行に口座を開いて預金しておいたほうがいいと言われ、資金を貸金庫から銀行口座に移す。
 ところがあろうことか、預金した翌日、預金封鎖になってしまう。アルゼンチンの金融危機である。支店長は知っていたのである。しかもどうやら、支店長と悪徳弁護士がグルになって資金を横取りしてしまったのだった。
 悪徳弁護士は、銀行に集まっていた預金を横領し、農場の林の中に大きな穴を掘って地下金庫を作りキャッシュを隠し保管していた。
 そのことを知ったグループは、地下金庫から資金を取り戻そうと動き出す。映画の後半はこの悪戦苦闘の模様が描かれている。
 アルゼンチンは、スペインの植民地だった国。人口の97%がラテン系である。当然、陽気。キャストやスタッフが紹介されるオープニングの字幕の背景音楽がワルツ(おそらくヨハン・シュトラウスの<春の声>だったか)だった。この曲はラストの字幕の背景にも流れていたが、どういう意味だったか。およそ映画の内容にはそぐわないようにも思えたが。
 そう言えば、地下金庫を襲うとした際に、グループの誰かが、〝これはバクーニンの精神だ〟と叫んでいたが、これはなかなか意味深長だ。
 ミハイル・アレクサンドロヴィチ・バクーニンは、ロシアの革命家だが、徹底したアナキストとして知られ、マルクスの主張したプロレタリア独裁に反対した。パリ・コミューンの先例となったし、第一インターの結成を促したが、とにかく急進派で、バクーニン主義はときにその過激さから暴力主義とイコールと思われたが、これは権力に抗するためのものであった。
 また、バクーニンは、マルキストが権力を握れば一党独裁になると訴えており、その後の社会主義革命あるいは今日の政治体制を見ても極めて重要な展望だったと指摘されよう。
 この映画で、バクーニンを深く掘り下げてはいないようだったが、現代にバクーニンが登場するとは新鮮に驚いた。
 資本家の出資によらず、庶民が金を出し合って企業体をつくろうとするのはまさしくアナキズムであろう。なお、アナキズムを無政府主義と訳するのはたぶんに一面的であろう。それでは無秩序な社会になってしまう。
 それにしても、この映画の原題La Odisea de los Gilesとは「まぬけたちの一連の長い冒険」という意味らしが、劇中、馬鹿として生きるのも悪くない、と誰かが語っていたりしていて、何やらアナキズムじみてきた。
 2019年アルゼンチン映画。監督セバスティアン・ボレンステイン。