ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

大・タイガー立石展

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(写真1 展示室の様子)

POP-ARTの魔術師

 千葉市美術館で開催されている。
 タイガー立石こと立石紘一(1941-98)の生誕80年の大回顧展となっていて、POP-ARTの魔術師というキャッチフレーズのもと絵画からイラスト、絵本、マンガ、彫刻などと出品点数は200点を超し、画業の全体像がわかるようだった。
 とくに注目したのは、<明治青雲高雲><大正伍萬浪漫><昭和素敵大敵>の三部作。1990年に描かれた油彩で それぞれの時代を反映した人物や出来事が描かれている。

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(写真2 <明治青雲高雲>の展示の様子)

 いずれも壁画のような大作揃いで、<明治青雲高雲>には西郷隆盛、坂本龍馬、福沢諭吉、明治天皇、鹿鳴館、日本海海戦、東郷平八郎、乃木希典、樋口一葉、正岡子規、石川啄木らが描かれているほか、高橋由一<鮭>や青木繁<海の幸>、赤松麟作<夜汽車>などと当時を代表する絵画の名作が引用されている。

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(写真3 <大正伍萬浪漫>の展示)

 また、<大正伍萬浪漫>には、菊池寛らの人物像のほか、竹久夢二<黒船屋>や中村彝<エロシェンコ氏の像>、岸田劉生<麗子像>などと大正ロマン主義が表現されている。
 さらに、<昭和素敵大敵>には、山本五十六、スターリン、ヒトラー、東条英機、双葉山、マッカーサー、松本清張、三島由紀夫、吉永小百合、田中角栄、松下幸之助、岡本太郎、昭和天皇らに加え、美空ひばりは古賀春江の<海>のポーズで描かれている。また、原爆や新幹線、満員電車、安保デモ、三億円事件などと社会風刺が多く取りあげられている。

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(写真4 <昭和素敵大敵>の展示)

 この三部作。見ていて面白い。吉田茂はちゃんと葉巻を持っている。しかし、春日八郎は歌うときにギターを弾いたっけかと思う。こんな見方読み方をしていると時間の経つのを忘れてしまうほどだ。
 しかし、一方で、この絵は何なんだろうかとも思う。時代絵巻なのか。それにしては、<昭和素敵大敵>に敗戦の日の皇居前広場がないし、70人ほどの人物が描かれ、太宰治もいるし坂本九もいるのに湯川秀樹が見当たらない。あるいは見落としかもしれないが。どの事件どの人物を取りあげるかは作者の自由だが、視点がわかりにくくて俗っぽい。また、風刺にしてはパロディが弱い。ただし、大作ではある。