ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

NHK日曜美術館制作班編『旅する日曜美術館』

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北海道・東北・関東・甲信越・北陸

 テレビで取り上げた番組を再構成しながら、改めて美術館を訪ねた美術館紀行で構成されている。
 全2巻で構成されていて、上巻下巻とも第1巻第2巻とも特に断りはないが、本書は上巻にあたるようで、北海道・東北・関東・甲信越・北陸の41館が紹介されている。
 読んでみると、番組を取りあげた〝NHK日曜美術館から〟と新たに訪ねた〝美術館を旅する〟が絶妙な組み合わせになっていて、今は亡き美術家が登場しても古い番組が色あせていないことに感心した。
 面白かったのは、松本竣介を取りあげた岩手県立美術館。1988年の番組で松本竣介について語った作家中野孝次の話が貴重だ。
 僕は竣介が非常に好きで、と語り出した中野は、<塔のある風景>(1947年頃)を引き合いに、「竣介の描いたものを見ると、絵の具も何もなくなっちゃって、庭に埋めてあった絵の具が焼け残っていて、それを取り出して描いたっていうんですけど、その絵の具というのが、代赭色というのか、そういう絵の具ばかりだったらしくて、晩年の竣介の絵はこの色が基調になっているんです。それが焼け跡のあの風景にじつに合っているんですね。」「松本竣介のことを僕はよく考えるんですが、やはりこの人は、とくにあの時代にあって、時代とともに生きた、そして時代と真っ正面から取り組んできた画家の代表的な一人だと思います。画家というのは時代の外に美を追究する人だと思われているけど、そうではなくて、竣介は時代とがっちり四つに組んで生きている。時代の空気をいつも表そうとしている。戦後のこの絵からもその空気がうかがえると思います。」
 また、美術館紀行では、舟越保武や萬鐵五郎といった岩手に縁のある美術家を紹介しながら、「盛岡を中心とする地域は、近代の青春を発信したようなところがあった、詩歌の宮澤賢治しかり、石川啄木しかり。萬鐵五郎も松本竣介も、舟越保武もまた、盛岡の地から作品を通して現在も発信を続けている。」と記述している。
 それにしても、取りあげた美術館はどのような基準で選考したものか。できるだけ地方の美術館を紹介しようという姿勢は伝わってきたが、それにしては、東京のアーティゾン美術館や三井記念美術館などはあまりにも有名でたびたび取りあげられている。
 それよりも、十和田市現代美術館や東御市梅野記念美術館、,埼玉の大川美術館、さらに、東北の県美で福島県立美術館だけが抜けていたのはなぜだったのか、いずれも魅力的な美術館であり、もう少し丁寧に光をあててほしかったと思われた。
(NHK出版刊)