ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『燃ゆる女の肖像』

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(写真1 映画館に掲示されてあったポスター)

素晴らしい映画言語と映画美

 美しい映像。それが独特の映画言語を表現している。会話は少ない。音楽も少ない。登場人物も少ない。ほとんど女性ばかり。しかしそれでも豊穣な物語を紡いでいる。カメラが少ない会話、少ない音楽を補ってあまりあるまれに見る秀逸な映画である。
 舞台は、18世紀のフランスブルターニュの孤島。絵描きの若い女性マリアンヌが小舟で島に渡ってくる。娘エロイーズの肖像画を描いてほしいという伯爵夫人の依頼である。ミラノに住む結婚相手に渡すためのもの。
 伯爵家には、そもそもエロイーズに姉がいたのだが、自殺してしまっていた。このためエロイーズは修道院を出て島に来ていたのだが、エロイーズも結婚には拒絶していた。それで、伯爵夫人はマリアンヌに対して画家とは名乗らず、エロイーズの散歩相手ということで接してくれと言われる。
 エロイーズは笑わないし、スケッチもできない難しい作業である。イーゼルに立ててあるカンバスは、見つからないよう覆いを掛けていたし、ときには、メイドにエロイーズの洋服を着せて座らせて写生をしていた。
 作品が完成するとマリアンヌはエロイーズに肖像画を見せる。しかし、エロイーズは「私に似ていない」と一言。
 出来映えに満足していたマリアンヌは心外でならないが、ここでマリアンヌは大胆な行動に出る。完成した肖像画の顔を塗りつぶしてしまう。
 伯爵夫人との約束の期限まで残り5日。マリアンヌは猛然と新しいカンバスに取りかかる。エロイーズもモデルの席に着く。ここからの5日間が実に濃密。エロイーズの肌は輝いているし姿も美しい。散歩を重ねているうちにエロイーズに笑顔も生まれる。
 二人はいつしか手を取り合うようになり、やがて唇を交わす。見ていて息がつまるような美しさだ。やがて肖像画は完成し、マリアンヌは島を去る。
 場面が変わって演奏会場。2階のバルコニー席にエロイーズがいるのだが、エロイーズは昂然として一般席にいるマリアンヌに目を向けない。しかし、高まる感情、泣いている、涙もある。激しい愛があり、ときには笑顔も生まれている。演奏された曲目は何というのだったか。
 映像は雄弁である。これほど印象深いシーンを我々は得ることができたのだった。映画だからこそ表現できたということで傑作である。
 監督・脚本はセリーヌ・シアマ。フランス映画。