ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

井川というところ

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(写真1 井川ダム。展示館から見下ろしたところ)

ああ!大井川鐵道の旅③

 大井川鐵道を起点の金谷から乗り込み、千頭で乗り継いで終点の井川に降り立った。金谷-千頭間が大井川本線、千頭-井川間が井川線である。千頭で運転系統が大きく変わるため直通できないのである。

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(写真2 井川駅1番線で発車を待つ井川線列車)

 井川駅はちょっと変わった構造。駅到着直前のトンネルを出ると2面2線のホームがあるのだが、このうちの駅舎側の片側1面1線(1番線)はまっすぐなホームですぐにトンネルとなる。短いホームで、小さな車両とはいえ5両編成の列車は最後尾と先頭の車両はわずかだがトンネルにかかっている。このようなこともあって朝一番発着の列車で使われているだけである。これに対し1番線の途中から分岐して左にカーブをして行き止まるのがもうひとつの1面1線(2番線)。大半の列車はこのホームを利用する。

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(写真3 かつて貨物線だった井川駅構内のトンネル)

 なお、1番線の先のトンネルは、かつて貨物線として使われていたもの。井川からさらに一駅だけ伸びて堂平(貨物駅)に至っていたが現在は廃線になっている。
 駅前には売店の名残もあったが、使われなくなって随分と日も経つような様子。
 駅から坂道を下っていくとすぐにダム。井川ダムである。大井川上流部ながらなかなか大きなダムである。ダムでできた井川湖が奥へと広がっている。

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(写真4 井川展示館。水力発電のしくみなどが解説されていた)

 ダムの堰堤のそばには中部電力井川展示館というのがあって、水力発電のしくみや井川ダムの役割、大井川水系のことなどの解説が展示されていた。
 それによると、大井川水系には12のダムと発電所があるということ。静岡県下の電力需要をまかなっているようだ。また、ダムには発電のほかにも水害防止や流域の水資源の確保などといくつも役割があるということだった。
 大井川は南アルプスの間ノ岳を水源としているのだが、井川ダムは大井川上流から4つめのダムで、総貯水容量は大井川水系中最大であること、日本で最初の中空重力式ダムであることなどが解説されてあった。中空重力式とは堤体内部が空洞になっているもので、同じコンクリートダムである重力式に比べコンクリートの使用量が少なくて済むという利便性があるとのこと。
 井川の中心井川本村は、井川駅からは離れていて、井川地区自主運転バスというコミュニティバスが運行されてるのだが本数は少ないようだった。また、展示館のそばから本村を結んでいる井川湖渡船があるということだったが、この日は残念ながら水位が下がっているとかで運行されていなかった。バスでも渡船でも本村までは約15分のところ、歩けば約1時間か。

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(写真5 井川湖のほとりを進む廃線ウォーク)

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(写真6 廃線小路には途中にトンネルも)

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(写真7 かつての堂平駅跡か)
 この日はここ井川に泊まることにしており、それでぶらぶらと歩くことに。展示館のそばから湖に沿って遊歩道が伸びている。〝廃線小路〟と名づけられており、すぐに廃線跡が出てきた。これはうれしい。廃線になった後も線路はそのままになっていたようで、枕木を踏みながら歩くことができた。右手に湖が見え隠れしている。途中トンネルがあり、やがて旧堂平駅跡に。かつては貨物駅だったということだが、それらしい遺構は見当たらなかった。

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(写真8 深い谷を渡る夢の吊り橋)

 さらに進むと、深い谷を渡る〝夢の吊り橋〟に。幅50センチほどの板が渡してあり、歩くとゆさゆさと揺れる。長い橋ではないが、中央付近では足がすくんだ。なお、橋の入り口にはいちどに渡れるのは5人までと注意書きがあった。
 この吊り橋を渡り終えると急な階段になっておりこれがつらかった。急斜面になっており舗装された道路に出るまでに50メートルほども登っただろうか。すっかりばててしまった。それで、道ばたで息を整えていたところ、通りかかった車が停まってくれて旅館まで乗せていってもらった。

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(写真9 大西屋旅館)

 旅館は、本村の中心にあり、大西屋旅館という。実は、井川に泊まるのは二度目。14年ぶりで、初めてのときもこの大西屋だったが、たたずまいはまったく変わっていなかった。
 井川は、かつては安倍郡井川村だったところ。近年静岡市に編入された。周囲を山々に囲まれており赤石山脈の南端に位置する。標高670メートルといい、朝晩は少し寒いくらいだった。なかなか大きな集落となっている。
 ここも静岡市かと驚くほどで、鉄道なら千頭がそうであるように榛原郡川根本町に含まれるのかとも思われたが、井川線の終わり閑蔵と井川の二駅だけは静岡市だったのである。
 それでか、バスは静岡市中心に直通しているようで、自主運行バスから路線バスに乗り継いで約2時間とのこと。約60キロの距離。
 旅館の周辺をぶらぶら歩いてみた。とんがり屋根の観光会館があり、ビジターセンターになっているようだがこの日はあいにくと休みだった。
 また、湖畔には静岡市葵区の井川支所があり、渡船場があった。郵便局があり、魚屋が2軒並んでいた。旅館の近くには小学校があったと記憶していたが、現在は移転して中学校と統合されたとのこと。
 山深い山間の集落。歩けば、すれ違うお年寄りが見知らぬ者にまで挨拶してくれる。温かな気持ちになってぶらぶらと歩いていた。(2020年10月6-7日取材)

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(写真10 井川湖を渡る本村の渡船場)