ABABA’s ノート

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K.スタンパー『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』

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アメリカの辞書編纂者の回顧

 ウェブスター辞書は、アメリカの英語辞典。200年を超す歴史を有する国民的辞書で、発行部数は聖書に次ぐといわれるほど。徹底したアメリカ英語で知られる。
 著者のコーリー・スタンパーは、版元のメリアム・ウェブスター社で約20年にわたり辞書編纂に携わってきた。名物編集者として知られ、退職を機に本書を著したようだ。なお、翻訳は、鴻巣友希子ら6人の翻訳家が分担して行っている。
 本書は、メリアム・ウェブスター社における自身の歩みを振り返りながら辞書編纂の世界がユーモアたっぷりに描かれており、英語という言葉の不思議が興味深く綴られている。
 挿入されているエピソードが卓抜。辞書編纂者らしく興味深いものが多くて面白い。
 一つ拾ってみよう。
 「初出という旅」の項。初出を入れようと言い出したのは当時の社長。オックスフォード(OED)にはすでに入っていたのだが、他社との差を際立たせるために挑戦したということ。当然、編集部員が猛反対。膨大な作業になるからだが、しかし、結果は大成功で、ウェブスターは大好評を得た。
 ちなみに、ウェブスターでは「初出の時期を、その辞書に入っている英語の項目の語釈のうち、もっとも古い意味で(英語の)文字として最初に使われたとき、と定めている。」とある。
 また、この項には、OMG(なんてことだ=Oh、My Godの頭文字)が、そもそも、「初めて使われたのはウィンストン・チャーチル宛の手紙だったのだから、じつは1917年に遡る。」とあって面白い。今やアメリカ人の好む慣用句がチャーチルと縁があったとは驚く。

 それにしても、オックスフォードにしろウェブスターにしろ、ある言葉の初出が示されているというのはすごい。我が国の国語辞典で古い用例が示されていることはしばしばだが、初出かどうかはわからない。我が国最大の国語辞典である日本国語大辞典(全14巻、小学館)にはある程度初出も載っているようだが、初出と断っていなかったようだがどうだったか。
(左右社刊)