シリーズ 駅 情景
(写真1 神岡鉄道の終点奥飛騨温泉口駅)
廃線になった終着駅
神岡鉄道は、高山本線の猪谷駅(いのたに=富山県富山市)から奥飛騨温泉口駅(岐阜県飛騨市)を結んでいた。全線19.9キロ、駅数は8。そもそも国鉄神岡線を転換した第三セクター鉄道である。神岡鉱山の硫酸輸送を行っていたが、収入の大きな柱だった貨物輸送がトラックに取って代わられると収益が悪化し2006年12月1日廃線に追い込まれた。なお、廃線時、定期券を所持していた人物は、富山市内の高校に通学する生徒一人だけだったという記録が残っている。これほどしぼんで廃線になった駅というのも珍しくはないか。
(写真2 神岡鉄道の起点猪谷駅)
私が神岡線に乗ったのは一度だけ。大概の路線は一再ならず乗っているから、これは珍しいくらい。もう一度乗ろうとしているうちに廃線になってしまったというところだろうか。
(写真3 神岡鉄道おくひだ1号)
この時(1994年8月27日)のノートによれば、猪谷11時27分発の列車に乗ったとある。1両のディーゼル、ワンマン運転。車両先頭に「おくひだ1号」と表示されているが、普通列車である。
(写真4 おくひだ1号の内部。囲炉裏が設けてある)
面白い車両で、ボックスシートのほか、囲炉裏を囲んだコーナー席もあった。観光用に設けたものであろうが、そもそも観光路線ではなかったし、苦心の跡がうかがえる。
(写真5 深い谷とトンネルが続く神岡鉄道沿線)
沿線は、高原川と言ったか、川が並行する深い谷の連続で、トンネルが多かったと記憶している。
そうこうして終点奥飛騨温泉口到着11時59分。起終点約30分の短い旅である。駅舎にはレストランが入っていた。折り返し列車には2時間も間があって、近所をぶらぶらしたが、当時のノートにも「駅前には何もない」とのみ記されている。
国鉄神岡線の開業は1966年で、開業時には神岡駅と称していた。それが1984年の神岡鉄道への転換時に奥飛騨温泉口駅へと改称された。いささかでも奥飛騨温泉郷と関連付けたかったものであろうが、そもそも奥飛騨温泉郷への最寄り駅とはなっていなかった。
(写真6 神岡が近づくと鉱山の工場が見えてきた)