ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

井上マサキ+西村まさゆき『たのしい路線図』

f:id:shashosha70:20200415140823j:plain

路線図に魅せられた男たち

 ただただ路線図を愛でては〝いいねぇ〟とつぶやきながら鉄道路線図の世界を紹介している。
 路線図と一口に言っても鉄道会社や駅によっても描き方に随分と違いがあるが、ここでは200もの路線図や運賃表が取り上げられている。
 私は鉄道が好きですべての路線に一度以上は乗ったことがあるほどだから、路線図も随分と見てきている。私が路線図に求める情報は、自分が乗っている(乗ろうとしている)列車がどのようなルートを通るのか、特に乗換駅についてはあらかじめ詳しい情報が欲しい。
 今日の世界中の鉄道路線図のはしりはロンドン地下鉄の路線図だったとのこと。ハリー・ベックという人が1931年に完成させたもので、いわゆるダイヤグラム型と呼ばれ現在の路線図の原型となった。
 現在のロンドン地下鉄と東京の地下鉄路線図を比べてみると、なるほどそっくりである。ロンドンの方がすっきりとしているが、これは東京の路線の大半が都心に殺到しているからに他ならず、路線図としては描きにくいものであろう。ちなみに、東京の地下鉄路線図が現在のもののようになったのは、実は芸大の学生の卒業制作だったということである。
 何度か見学したことがあるが、コヴェントガーデンにあるロンドン交通博物館には、東京の地下鉄路線図が大きなパネルで掲示してあった。ロンドン地下鉄路線図の正統な後継と見なしたものかも知れない。
 路線図にもいろんなものがある。地図は一般に北を上にして描くが、南北が逆さまになったものがあり、阪急の路線図には列車の進行方向を基準にして描かれているので南北がひくりかえった。だから、この路線図では京都の河原町が西つまり左になり、神戸三宮が東に描かれている。
  よく工夫されているのは名古屋市営地下鉄。地下鉄で唯一環状線があるのだが、すっきりとまとまっている。しかも、現在地の駅が路線を貫通するリングで描かれており秀抜だ。環状線では、進行方向の部分が色分けされていて乗客は戸惑わなくて済むように配慮されている。
 遊び心が感じられるのはJR四国の路線図。過密さはないから普通に描くと単純になりやすいところを、大きくデフォルメしてまるで犬のようにも見える。
 すごいのは近鉄の路線図。近鉄は日本最大の民鉄であり、大阪や京都、奈良、三重、愛知5府県に路線網が伸びており、誠に広大。しかも、列車種類も多く、列車ごとに停車駅も異なるなから複雑。本書には掲載されていなかったが、近鉄はJRや他社線も含めた路線図を持っていて、よくぞここまで1枚にまとめたものだと感心するほどだった。 
 なお、路線図そのものが込み入っているからやむを得ないのだが、図中の文字が小さくて読むのが難儀だった。
 著者らは必ずしも鉄道ファンではないのだという。それでも円周にはいるのだろうから、鉄道は間口が広い。踏切ファンという人もいるし、鉄道文字を研究している人もいる。
(グラフィック社刊)