ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『パラサイト 半地下の家族』

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(写真1 映画館に掲示してあったポスターから引用)

臭いが狂気を生む

 半地下の部屋に住む4人家族が主人公。部屋の窓からは通りの地面が目の高さに見えていて、時々、窓のすぐそばで酔っ払って立ち小便をする者がいる。部屋の中はゴキブリが走り回っており、駆除の薬剤散布がまき散らす噴霧が開け放った窓から部屋に充満するが意に介さない。
 息子ギウは兵役から帰ってきたものの、2年続けて大学受験に失敗しているし、自動車運転手の父親キム・ギデクには仕事がない。何しろ、ソウルは警備員の募集に500人が応募してきたという就職難。美術学校に進みたい娘ギジョンも金がなくて予備校に行けないでいるし、母親チュンスクも家で宅配用のピザの箱を作る内職が細々とあるだけ。
 あるとき、ギウは友人から、アメリカに留学するので留守の間家庭教師のアルバイトを代わってくれと頼まれる。
 アルバイト先は、高台の高級住宅街にある豪邸。主人パクはまだ若いが会社社長の富裕層で、美しい妻ヨンギョと娘ダヘ息子ダソンの4人家族。家庭教師の仕事は受験勉強中の娘に英語を教えること。息子はまだいたずら坊主だが、美術に特異な才能が見られる。
 ギウはあるとき奥様ヨンギョからダソンにも美術を教えられる家庭教師がほしいと相談を持ちかけられる。そこで、ギウは妹のギジョンをいとこと偽って紹介する。
 やがてギジョンは、一計を案じて運転手を追い出し、後釜に父親のギテクを知人で評判のいい運転手と称して据えることことに成功。続けて家政婦も追い出し、母親のチュンスクを職業斡旋所の紹介とだましてもぐりこませる。
 こうしてキム一家は4人全員がパク家にパラサイト(寄生)することとなったのだった。ここまで映画はユーモアたっぷり。
 ここから先へストーリーを追うとネタバレになるので控えるが、キム一家とパク家とはすべてが対照的。
 特に決定的な違いは〝臭い〟だと言ったらわかりにくいだろうか。この臭いが最後には狂気をもたらす。
 脚本がいいし、とても面白い映画。終始緊張感もあり、全編にユーモアが感じられるし、ミステリアスであり、社会性もあって、極上のエンターテイメントである。
 本作は、カンヌ映画祭でパルムドールを受賞したし、このたびのアカデミー賞では作品賞や監督賞などに輝いた。アメリカ以外の作品が作品賞に輝いたのは初めてだということである。
 監督ホン・ジュノ。