(写真1 映画館に掲示されていたポスターから引用)
ああニューヨーク
1950年代のニューヨークが舞台。ある種フィルムノワールのような色彩があってとても印象深い。
チック症の青年ライオネルが主人公。私立探偵事務所で働いている。孤児院で育っていたところを所長のフランクに拾われ仕事を手伝っている。この探偵事務所で働いている所員たちは全員孤児院から引き取られてきた。
あるとき、フランクが路上で襲撃されて殺害された。ライオネルら3人が動員されていたのだが、なすすべもなかった。仕事の中身は知らされていなかったのだが、ライオネルは真相を突き止めようと動き出す。
ライオネルの住んでいるアパートの部屋からはブルックリン橋が見えている。そう言えば、ライオネルはフランクから日頃〝ブルックリン〟とあだ名で呼ばれていた。それも、時折マザーレスブルックリン(母なしブルックリン)と呼びつけられていた。
あるいはフランクはライオネルの出自をアイルランド系と考えていたのかもしれない。なぜならブルックリンはアイルランドからの移民が多いところ。また、劇中、ライオネルが馴染みのバーに入ると、バーテンが「アイリッシュにするかい?」と尋ねる場面があった。何やらアイルランド系を想像させる。ちょっと読みすぎかもしれないが。
シガレットをくわえ、ライターはあくまでもジッポー。紫煙が漂う。中折れ帽にコートというライオネルの出で立ち。どこまでもハードボイルド調だ。
音楽が良かった。当然だがジャズ。トランペットはチャット・ベイカーだったろうか。マイルス・デイヴィスを彷彿とさせた。
往年のペンシルバニア駅が出てきたのには感動した。現在では地下駅になってしまって往時を偲ぶよすがはなくなってしまったが、やはりグランドセントラルのような駅舎だったのだとしれた。現在でも、〝ペン・ステーション〟あるいは単にペンと呼ばれ親しまれている。
それにしてもこの映画はどうやって往事のペンシルバニア駅を再現したのだろうか。1962年に現在の駅舎に建て替わっているから、映画の設定当時は確かに伝統の旧駅舎だったのである。
古き良きニューヨークにばかり思いをはせていると、ストーリーを追うことをうっかりおろそかになってしまうが、しかし、この映画は、映画の持つ時代背景にどっぷりつかることこそが楽しみだと思われた。
出演は、ライオネルにエドワード・ノートン。監督も。チック病の主人公を演じて秀逸だった。所長のフランクを演じたブルース・ウイリスが初めの数分間登場しただけで引っ込んだから、大物俳優の使い方にびっくりした。それにしても、ブルース・ウイリスはこういうフィルム・ノワール調の役どころでは際だった存在感があった。
ブルックリンは、イースト・リヴァーを挟んでマンハッタンの対岸。ブルックリン橋が両岸を結んでいるが、独特のアイデンティティがあって印象深いし、物語になる街だ。
(参考=イースト・リヴァーを渡るボートの船上から見たブルックリン。左がブルックリン橋=2018年3月馬場撮影)