ABABA’s ノート

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戸田泰生画『再生』

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(写真1 自身の作品とともに戸田泰生さん)

第49回純展出品

 戸田泰生画『再生』は、上野公園の東京都美術館で開催されていた公募展純展に出品されていた。
 純展は毎年秋に開催されていて、関東地方からの出品が大半で、今回は238人290点に上る作品が出品され、ほかにトルコなど海外からも50点を超す作品が出品されていた。
 戸田さんの作品は、会場入口近いところに展示してあって、この展示室は実力者の作品が集まっていたが、100号の大作であり、会場に入ってすぐに目立った。
 大きな木が不気味な枝を伸ばしている。背景の山は赤く燃えている。碧い湖が静けさを際立たせている。異次元の世界のようでもあるが、画面右上の山裾に工業のプラントも見える。
  終末のようでもあるが、絵が若若しいし不思議な生命力も感じられる。こじつければ様々な受け取り方ができそうだが、難しい味わいがある。
 戸田さんとはかねて昵懇の間柄。同じ業界にいて駆け出しの頃から可愛がってもらってきた。
 戸田さんは83歳。高校大学時代から絵は好きだったようだが、会社勤めをしていた時代は絵筆を握ることはなかったが、70歳で社長を退任してから本格的に取り組み初め、それも美大を目指す若い学生が通う教室で基礎から学んだという。
 私はこの10数年来戸田さんの絵を見てきているのだが、戸田さんの特徴はモチーフが多彩で次々と変化のあること。
 10年くらい前になるか、当時は沖縄の闘牛の模様を好んで描いていた。とにかく迫力のある表現でディテールがしっかりしていたし、優れて臨場感のある作品だった。これで、画家としての評価を確立したのではなかったか。
 それで、しばらく闘牛を追求していたのだがある年からふっとこのモチーフが消えた。その後、里山の風景などを描いていたが、4年ほどになるか、都会の街路を大胆な構図で描いてきて、しゃれた画風はストーリー性に時間の動きまでも感じさせる秀逸な作品世界を完成させていた。この作品で純展の最高賞を受賞し、名だたる地位を確立させていた。
 それが、今年の春の公募展旺玄展あたりからまたまたモチーフを転換させ、生命の不思議と取り組む作品世界へと変わってきた。
 その一連の展開がこのたびの『再生』で、この絵の中で、碧い湖があって我々は再生できる可能性を知ることができた。ただ、戸田さん特有の遊びがなくなってきたように思える。
 とにかく戸田さんの絵は見るたびに変化が大きくて、それは大きな楽しみでもあるのだが、戸田さんの創造力に感銘を与えられるとともに、常に100号近い大作に取り組んでいるエネルギーにも感服する。

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(写真2 戸田泰生画『再生』