ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

灯台紀行:江埼灯台

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(写真1 夕陽を浴びる江埼灯台)

明石海峡を照らす

 江埼燈台は、淡路島で明石海峡に面して立つ灯台。対岸は明石で、海峡は最狭部は幅がわずかに3.6キロ。大阪湾と播磨灘を分かつところであり、海上交通量が非常に多い。
 淡路島には明石港から旅客船で渡った。山陽明石駅から徒歩5分ほど。淡路ジェノバラインが明石港と淡路の岩屋港の間を結んでいる。旅客用でこのルートにはフェリーの運航はないようだ。
 日曜の夕方だったのだが、大半が常連客のようで、観光客の姿は目立たなかった。高速双胴船で、自転車とオートバイは乗船できるようだ。

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(写真2 巨大な明石海峡大橋)

 明石港を出ると斜めに海峡を横切っていく。すぐに明石海峡大橋が見えてくる。世界最長の長大橋で、全長が3,911メートル。海峡は流れの速いことで知られているが、この時間帯は潮流の影響はさほど感じられなかった。
 大橋が近づいてくるとその巨大さに圧倒される。それもそのはず、何しろ海峡を一またぎしているのだから。特に、海面上298.3メートルもある主塔の高さには感嘆するし、世界最長の中央径間もすごい。世界最大の鋼構造物であり、その製作に溶接技術があったことは言うまでもない。
 やがて船は大橋の下をくぐって岩屋港へと入っていく。この間わずかに10数分。料金は500円。なお、大橋の下をくぐった際に見上げた補剛桁の巨大さには感動した。
 岩屋港の周辺は街になっていた。ここから灯台までは4キロ弱ほどか。最悪歩くことも覚悟をしていたが、幸いタクシーが待っていた。
 タクシーなら海岸沿いをわずかに10分弱。小さな公園があって、5台ほど停められる駐車場もあって、目印となる高さ数メートルほどの灯台の模型もあった。その脇が灯台への登り口となっていた。
 タクシーには待っていてもらうことにして、さて、登ろうかとしたところ、階段を降りてきた初老の女性がいて、途中が薄暗くて恐くなり戻ってきたとのこと。それで、タクシーの運転手が、この旦那が今から灯台に登るらしいからついていったらいいと助言。
 然らばご一緒にということで登り始めたのだが、なるほど鬱蒼としている。しかし、そんなことよりも階段がきつい。それも階段の踏み幅が狭いから、まるでつま先だけで登っていくようで、とてもかかとまでは踏み込めない。全国の灯台にはこういう階段がままあるが、これはつらい。

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(写真3 灯台から見た明石海峡)

 階段も急なのだが、それでも10分とかからず灯台に。眼前に明石海峡があり、すぐ対岸に明石の街が迫っている。一緒に来た女性が、明石に住んでいて、毎日この灯台の灯りを見ながら暮らしているとのこと。それで、灯台から見たら自分の家がどのように見えているのか知りたくて、初めて訪れてみたのだということ。なるほど、女性の指さすマンションが視認できるほどに近い。
 海峡に灯台は必ずというほどにあるものだが、なるほど、これほど対岸の近い距離は珍しい。明石側は、海際までマンションが屹立しているように見えるし、すぐ右横には明石海峡大橋が勇姿を伸ばしている。

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(写真4 海側から見た灯台)

 灯台はずんぐりしたつくり。半円形のように見えるが、実際は円形の灯塔に付属舎がついたもの。真っ白な大型灯台だ。塔高はさほど高くはないからレンズが間近に見える。日本における灯台の父ブラントンの設計で、同じような形のものは北九州の部埼灯台などもそうで、全国で時折見かける。

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(写真5 レンズは第3等フレネルレンズ)

 灯台に貼り付けてあった初点銘板によれば、初点灯が明治四年(辛未)四月二十七日(旧暦)とあったが、これはいわゆる大坂条約で欧米列強と建設を約定した5基の洋式灯台のうちの一つで、御影石を使用した石造。最初の光源は石油ランプだったらしい。歴史的文化財的価値が高いところからAランクの保存灯台に指定されている。また、近代化産業遺産でもある。
 ちなみに、大坂条約の5基とは、この江崎のほか六連島、部埼、友ヶ島、和田岬の各灯台で、関門海峡から紀淡海峡まで瀬戸内海を結ぶような位置にある灯台である。
 灯台が建っているのは海抜40メートルほどの高台。眼下を通る船舶がよく見える。1日に1,400隻も通過するというほどに交通量が多い。この狭い海峡を通過する際には独自のルールがあるようで、全長50メートル以上の船舶は右側通行と定められているという。
 日が暮れてきたが、まだ灯台は点灯しない。くだんの女性の話によると、この灯台は白と赤が交互に光るらしい。光達距離は白光で18.5海里(約34.3キロ)というから、対岸はもとより随分と遠くまでを照らしている。
 来るときには大橋にばかりに注意がいって気がつかなかったが、帰途の船上から見たら、岬の中腹にある灯台がかすかに視認できたし、そのさらに高いところには通称大坂マーチスと呼ばれる大阪湾海上交通センターの白い建物が見えた。まだ灯台は灯りを灯していなかった。また、江埼の先に落ちる夕日が美しかった。

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(写真6 帰途の船上から見た江埼の先に落ちる夕日)

<江埼灯台メモ>((灯台表及び燈光会等が現地に設置した看板、ウキペディア等から引用)
 航路標識番号[国際標識番号]/3801[M5796]
 位置/北緯34度36分23秒 東経134度59分36秒
 所在地/兵庫県淡路市野島江崎
 塗色・構造/白色 塔形 石造
 レンズ/第3等不動フレネル式
 灯質/不動白赤互光 白色5秒 赤色5秒
 実効光度/白光6.2万カンデラ 赤光2.4万カンデラ
 光達距離/白光18.5海里(約34.3キロ)赤光16海里(約29.6キロ)
 明弧/61度~266度
 塔高/8.27メートル(地上- 塔頂)
 灯火標高/48.5メートル(平均海面- 灯火)
 初点灯/1871年(明治4年)6月14日
 管轄/海上保安庁第五管区海上保安本部神戸海上保安部