ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

映画『バーニング』劇場版

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(写真1 映画館で配布されていたパンフレットから引用)

村上春樹原作の韓国映画

 2018年製作。監督イ・チャンドン。原作は村上春樹の『納屋を焼く』。

 ソウル最大の繁華街南大門とおぼしき街頭でイ・ジョンスは、幼なじみのヘミから声をかけられる。
 ジョンスは、兵役を終え大学も卒業したばかりの青年。小説家志望だ。ヘミはアルバイトで食いつないでいるという様子。
 そのヘミからジョンスは、アフリカに旅行している間、アパートで飼っている猫の世話をしていて欲しいと頼まれる。ヘミのアパートはワンルームで、部屋の窓からは南山タワーが見えている。
 帰国の連絡を受けて空港に出迎えに行くと、ヘミはアフリカで知り合ったという男ベンと連れ立っていた。
 ベンは、ジョンスよりも少し年上。外車の高級スポーツカーを乗り回し、遊んでばかりいるという。ジョンスに言わせると〝ギャツピー〟というタイプで、最近ソウルで増えているらしい。
 ベンの住まいは高級マンションで、時々、女友達数人を呼んでパーティーを開いている。ジョンスも招かれたが、なじめずに先に帰った。
 ある日、ヘミとベンは近所まで来たからとジョンスの実家に立ち寄る。ジョンスの家は、38度線が近い農家。北が南への宣伝工作に鳴らしている大音響のスピーカーの音が聞こえている。
 彼らが持ってきたワインを飲んでいたら、ベンがグラス(大麻のことのようだ)を取り出し回してよこした。ヘミが吸い、ジョンスも口にしたがむせた。やがてヘミが上半身裸になって踊り出す。ジョンスはヘミに娼婦みたいな真似はよせと注意する。
 ベンは、ビニールハウスを焼くのが面白いと語り出す。二ヶ月に一度くらいの頻度で焼いており、次には近々この近所で焼くのだという。ジョンスがそれは犯罪ではないか指摘すると、ベンはどうせ不用になったビニールハウスだから警察も問題にしないと答える。なお、ビニールのことを私にはピニールと聞こえた。どうでもいいことだし、聞き間違いかも知れないが。何事にもおもしろがらず感動を示さないベンにしては珍しいこと。
 二人はやがて帰っていったが、これ以降ヘミの姿が見えなくなる。アパートにも帰っていないようだし、ベンに聞いても知らないという。しかし、ベンのマンションにはヘミの腕時計が引き出しにしまってあった。ジョンスがプレゼントしたものだったが。このヘミの失踪が一つのミステリー。
 暗喩というか、隠喩というか、メタファーというか、これが多い。こじつければ全編そうではないかと思えてくるほどだ。これはこの監督の手法なのかどうか。
 ただ、そうすると、くどいし、あまりにもテーマが広がりすぎて観ていて疲れる。全編がミステリー風だから伏線と捉えることもできるが、それでは欲張りすぎて学生の作った映画みたいになってしまう。しかし、観ている者をいらいらさせる緊張感はあって、飽きさせない。
 映画が原作と同じである必要はないというのが私の持論だが、それにしてもこの映画は原作とは随分と違っていた。大胆な脚色と言うべきか。
 原作にあったものは、パントマイムとビニールハウス(原作では納屋)くらいか。どぎついセックスシーンが何度か出てきたが、これは原作にはなかったもので、村上はあんな性描写をしているのかと思われかねず、原作者は苦笑いしているのではないか。
 ラストシーンは、原作にはないものだったが、宣伝惹句通りに有り体に言えば〝衝撃的〟ということだろうが、私には自分で想像していた通りのラストだったし、この程度では衝撃的とは言えないと思ったし、多用した暗喩にも深みがなかった。
 結局、この映画は評価が分かれるのかも知れない。私自身は、好感は持たないが、韓国の現代の若者を描こうとしていたことはわかった。