ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

フリン・ベリー『レイチェルが死んでから』

f:id:shashosha70:20190106135938j:plain

入り組んだ心理劇

 ノーラは、週末を利用してロンドンから姉のレイチェルが住むコーンウォールを訪ねた。
  家が近づくと何かがおかしい。家に入ると最初に目にはいったのは犬で、階段の一番上からリードで吊り下げられていた。階段を登ると、腰板に血痕があり、血溜まりにレイチェルが倒れていた。いったん外に出て携帯電話で救急車を呼んだ。
 おどろおどろした書き出しで物語は始まる。アビントン警察殺人課の警部補モレッティが事情聴取を行う。姉と最後に話したのはいつか、姉の様子はどうだったか、姉に危害を加えたいと思っていたような人はいなかったか。
 実は、レイチェルは、15年も前のことだが、17歳の時に暴行を受けたことがあった。その時、警察はレイチェルの話をろくに信じなかったし、事件は未解決のままだった。
 物語は、ノーラが語り手となって進む。ノーラが聞いたこと、見たこと、考えたこと、思い出したこと、レイチェルとのことなどが細大漏らさず克明に綴られていく。余りに膨大で、事件の伏線となっているかどうかすら察せられない。
 やがて、ノーラは事件の真相を探り出そうと静かに動き出す。自分が得た情報をモレッティに話し、モレッティからも捜査の進捗を聞き出す。
 様々な人物が浮かび上がってくる。事件の日の朝にもレイチェルと会ったという配管工のデントン。また、モレッティは15年前の事件との関連性についても調べていく。
 文中の言葉を借りれば「時間が這うように過ぎていく」が、事件捜査に進捗が見られない。驚いたことに、ローラ自身が疑いの対象になっているようだ。しかも、とんでもない事実が明るみに出てきている。
 結局、クライマックスがないままに物語は終焉を迎える。ノーラがふらふらしているから核心には容易には近づけない。文章はやさしいのに読みにくい小説だ。しかし、物語に魅力があって最後まで読み通すこととなるし、ミステリーというよりも心理劇として読んだ方が本書を途中で投げださずに済む。
 エドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)最優秀新人賞受賞作。田口俊樹訳。
(ハヤカワ文庫)